【甲子園】阪神にマジック39点灯 4連勝で完封勝利 村上9勝目 阪神5−0広島カープ(2025年7月30日

観戦記2025
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TIGERS STORY BLOGは、阪神タイガースの試合を“物語”として描く観戦記ブログです。

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試合概要・あらすじ

2025年7月30日、甲子園球場で行われた阪神タイガース対広島東洋カープ戦。阪神が5-0で完封勝利を収め、ついに優勝マジック「39」が点灯した。先発の村上は6回無失点の好投で今季9勝目。4回裏のパスボール、6回裏の押し出し四球、8回の大山・熊谷の適時打で計5得点。シーズン23度目の完封勝利は1965年以来60年ぶりの快挙となった。

物語は55歳の夜勤警備員・荻野正和と22歳のバンドマン・菊池浩哉の友情を描く。マジック点灯の夜、正和は浩哉の夢への情熱に触れ、自分自身の人生を見つめ直していく。阪神の球団カラー、黄色と黒がスパークのように見えるという浩哉の言葉から、「黙って見てるだけ」の人生から一歩踏み出す勇気を見つける感動の観戦記。

黙色スパーク〜阪神タイガース観戦記2025年7月30日

甲子園への道のり〜夢を語る若者と歩む夕暮れ

「ねえ、もし俺らで応援歌作ったら、どの選手のにします?」
甲子園球場へ続く道で、浩哉が妙なことを言い出した。

7月30日、午後4時半。アスファルトから立ち上る陽炎が足元でゆらめく。太陽はまだ高い位置にあるが、ビルの合間に挟まって、オレンジ色の光が斜めに差し込んでいた。湿度の高い空気が肌にまとわりつき、正和の紺色の半袖シャツは既に背中で汗を吸って重たくなっている。

「ふ、、、何の話や」

正和は缶ビールを一口飲んだ。冷たい液体が喉を通る瞬間、一瞬だけ体の熱さが和らぐ。人混みをかき分けながら歩くたび、他人の体温と汗の匂いが混じり合った空気を吸い込む。平日の夕方にしては異様に人が多い。優勝マジック点灯の可能性があるからか、いつもより熱のこもった話し声があちこちから聞こえてくる。

「いや、バンドで阪神の応援歌とか作ったら面白いかなって」

「お前のバンド、そんな曲やるんか」

「全然違いますよ。でも、甲子園で流れる曲って、なんかこう、心に残るじゃないですか」

屋台が立ち並ぶ一角を過ぎる。たこ焼きや焼きそばの匂い、生ビールの泡が弾ける音が混じる空気。
55年間繰り返してきた甲子園の匂いが鼻をくすぐった。

「オギノさん、めっちゃ人多いっすね。もう外で汗だくですわ」

「ふ、、、おっさんはここ来る前から汗だくや」

浩哉の黒いバンドTシャツは胸に張り付き、額に玉のような汗。正和はサコッシュのストラップを直しながら歩く。膝の古傷がじんわりと痛む。

その頃から、浩哉にさえ指摘されるようになった。
自分は何を言い出す前にも、かならず「ふ、、、」とひと呼吸置くらしい。
笑うでも怒るでもない、その癖のような間合いが、自分でも少し可笑しくなる。

正和は4月の夜勤休憩を思い出した。
スマホの画面を覗き込んだとき、「ハギノさんも野球好きっすか」と浩哉が屈託なく声をかけてきたあの瞬間だ。

「ハギノやなくてオギノや」
「は?」
「ハギノやなくてオギノや」

そのときの、気まずそうに頭をかく浩哉の表情。
馴れ馴れしい若者だと思ったのに、気づけば毎晩の休憩が楽しみになっていた。

倉庫の休憩室。夜中の三時、冷房が効きすぎた部屋で、カップ麺と缶コーヒーの匂いに包まれながら、二人で小さなスマホ画面を覗き込むのが一日の中で一番安らぐ時間になった。

スタンドで語る未来への想い〜夕陽から照明へ

スタンドの入り口をくぐるとひんやりした日陰の涼しさが頬を撫でた。

席に着くと、プラスチックの座面が午後の日差しを吸い込んで熱くなっている。正和は一度立ち上がり、サコッシュをお尻の下に敷いた。金属の手すりに手をかけると、まだ熱を持っていて指先がじんわりと温かい。

「今日勝ったら、ほんまにマジック点灯ちゃいます?」
「うまいこといきすぎや。まだまだ気ぃ抜いたらあかん。2008年とか2021年、覚えてへんのか」
「2008年のこと、ようみんな言うけど俺小学生っすよ。そんな悲惨やったんです?」
「ふ、、、聞くな。トラウマや」

正和は座席に腰を下ろした。膝の古傷が夜勤の疲れでじんわりと痛む。50年間、こうやって阪神を見続けてきた。メーカーで働いていたころは残業続きで、なかなか球場に足を運べなかった。コロナの時期に業績悪化で声をかけられた早期退職。悔しいというより、ぽっかり穴が開いた半年だった。もう誰も自分を必要とせんのちゃうか。そんな思いを抱えたまま、生活だけが続いている。

6時の試合開始が近づくにつれ、西日がスタンドの角度を変えて正和の顔を照らす。目を細めて手で日差しを遮ると、グラウンドの芝生が夕陽を受けて金色に輝いて見える。照明塔がパチパチと音を立てて点き始め、白い光と夕暮れの橙色が混じり合う。

「でも今年のチームは雰囲気いいっすよね。藤川監督も有能っぽいし」
「新人監督は外野の声も多いはずやのにあの人、ようやっとるわ」
「中日とかヤクルトとの試合多いっすよね、このあと。村上戻ってきたの怖いっすわ」
「油断したら一瞬で流れ持ってかれる。村上の一発は洒落にならん。高津監督も最近は笑っぱなしやろ」

浩哉がふと振り向いた。甲子園の熱気に包まれた観客席を見回し、少し間を置いてから言う。
「なんか、阪神見てると自分もがんばろ思えるんすよね」
「まあ、よう言うわ。お前が一番頑張っとるやないか」
「いやいや。オギノさんも夜勤、全然休まず来てるし」
「ただ突っ立ってるだけや。頑張るいうんは、お前みたいに目ぇギラギラしてやることや」

浩哉は少し照れたような顔をした。Dir en greyのライブTシャツが汗と湿気で胸や背中にぺったりとくっついている。この子は本気で世界を目指している。22歳で、まだ何でもできると信じている。

「俺、来年はまず地元のライブハウスでワンマンやるんです。そこからツアーして、海外にも挑戦して、いつか甲子園でライブするのが夢で」

その口ぶりがあまりに真剣で、正和は紙コップのビールをひと口飲んだ。ぬるくなった液体が舌の上で苦く広がる。55歳。夜勤警備員。これといった趣味もなく、これといった将来もない。ただ阪神が勝てば嬉しくて、負ければ悔しい。それだけの毎日。

完全に日が暮れる前、照明塔が少しずつ光を強めていく。スタンドの顔が白い光に少しずつ浮かび上がり始める。

「俺、甲子園の雰囲気好きっす。おっきい声で応援してるだけで、ちょっと世界広なった気しますもん」
「お前の世界はギターだけやと思とったけどな」

浩哉が振り返る。太陽の光を受けて、目だけがキラキラと輝いている。
「オギノさんは、何か夢ってありますか?」

唐突な質問だった。正和は答えに詰まった。夢。そんなものを考えたのはいつだったか。紙コップを握る手だけが少しひんやりとしている。

スタンドがざわめき始め、人々の話し声が低いうねりのように響く。応援団の太鼓が「ドンドンドン」と腹に響く音を立て始めた。

正和は浩哉の横顔を見た。この子と出会ってから、少しずつ何かが変わっている。毎日がただの繰り返しではなくなった。

無意識に「ふ、、、」と息がこぼれた。考える前にひと呼吸置く、その癖がもう染みついている。
「夢か」
正和は呟いた。胸の奥で、小さな何かがピクリと動いた。

投手戦から劇的展開〜パスボールと押し出しの奇跡

一回表、村上が二死一、二塁のピンチを背負った。五番坂倉の打席。スタンドの空気が一瞬で張り詰める。正和の手のひらに汗がにじんだ。

「おお、抑えてくれよ」

正和がつぶやいた瞬間、坂倉の打球がポーンと高く上がる。センターフライ。近本が追いついてキャッチした瞬間、スタンドから「おおおおー」という安堵の声が上がった。

「よっしゃ、とりあえず初回は切り抜けたで」

二回表、また嫌な流れ。先頭末包に四球を与え、七番矢野にもヒット。八番の林を三振に取ったものの、九番大瀬良の送りバントを大山がフィルダースチョイス。満塁。スタンドに緊張が走り、正和の握る手すりに力が入る。

「オギノさん、なんか昨日からこんな場面多くありませんか」
「ほんまや、なんのお約束やねん。心臓に悪いわ」

トップバッター秋山の打席。観客たちが息を呑む静寂。バットがボールを捉える瞬間の「パシッ」という音がスタンドに響く。打球がショート小幡の正面へライナー。小幡が捕球すると素早く一塁へ送球。大瀬良がベースに戻れずダブルプレー。

「おおおおお!」

スタンドから一気に歓声が沸き上がる。正和も思わず立ち上がり、拳を振り上げた。隣の浩哉が「やったー!」と叫んでいる。

「なんかこのシーンも昨日見ませんでしたか?」
「そうやな、デジュビュってやつか」
「デジャブですよね。オギノさん」

浩哉がすかさず突っ込んでくる。抜け目ないやつだ。

四回裏、先頭の佐藤、大山が連打でチャンスメイク。六番小幡の送りバント失敗からヒッティングに切り替えるも、ダブルプレー。ノーアウト一、二塁が二死三塁に。スタンドから落胆のため息が漏れる。

「んーーー、厳しいか、先制点欲しいなあ」

正和が深く息を吐いた。七番坂本の打席。初球ストライク、2球目――。

その瞬間、大瀬良の投じたボールがキャッチャーのミットを大きく逸れて後方へ転がった。暴投。三塁ランナーの佐藤が慌ててホームに向かう。坂倉が必死に追いかけるが間に合わない。佐藤がホームベースを踏んだ瞬間――。

「え、入った!」

スタンドがどよめき、そして大きな拍手に変わった。正和と浩哉は顔を見合わせ、思わず笑い合った。予想外の展開に、観客席のあちこちから「ラッキー!」「よっしゃ!」という声が飛び交う。

六回裏まで、両先発がじりじりした投手戦を展開。村上はランナーを背負いながらも粘り強く零封継続。サードの佐藤の攻守も目立つ。一方、大瀬良も一失点に抑える貫禄のピッチング。スタンドは静かな緊張感に包まれ、一球一球に観客がざわつく。

六回裏、先頭中野への四球の後、大瀬良に異変。ベンチからコーチが駆け寄る。そのまま緊急降板し、マウンドには二番手ハーン。森下がこの日二本目のヒットで一死一、二塁。そこへ小幡に代わって代打ヘルナンデス。

「モーチョ。今日から一軍ですもんね」
「おおよ。二軍でめちゃ打ってたで。やっぱ暑いと調子出るタイプなんかなあ」

一死満塁。観客たちが固唾を呑む。ヘルナンデスはインコースの球を全て見極め、四球。押し出し。またしても思わぬ形での得点に、スタンドから複雑な声が漏れる。

「なんか、、、思ってたのとは違う展開やけどとりあえず追加点ですね」
「おお、ヒットと一緒や」

八回の大爆発〜夏男の意地とマジック点灯

八回裏、先頭森下が左中間二塁打。バットがボールを捉えた瞬間の「ガツン」という音が響き、打球がフェンス際まで飛んだ。

「おお、森下ええぞ」

佐藤の打球は二塁手のもとへ。しかし羽月がファンブル。佐藤がセーフで一死一、三塁。大山の打席でスタンドが期待でざわめく。

「大山、この暑さやと調子ええはずやで」
「夏男っすもんね」

浩哉がタオルを振り回す。周りの観客も立ち上がり、チャンステーマの合唱が始まる。「大山!大山!」のコール。

カウント2-1。大山がレフトへ鋭い当たり。打球が三遊間を抜けた瞬間、スタンドがどよめいた。

「やった!これや!」

正和が立ち上がる。三塁ランナーの森下がホームを踏み、観客席から大きな拍手が起こる。ようやくスッキリした形での得点に、ファンの興奮が最高潮に達した。

二死後、高寺が粘りの四球。追い込まれた後のフルカウント、7球の攻防。ボール球を見極めた瞬間、観客席から「よく見た!」の声。

「おお、高寺もええ仕事するなあ」
「追い込まれてからの四球、価値ありますよね」

そして熊谷。こちらも粘って九球目、ピッチャー松本のカーブを拾い上げる。バットの芯で押し込んだ打球がセンター前に落ちた瞬間、歓声が波のように広がった。

「うわあああ!」

浩哉が飛び跳ねた。正和も拳を振り上げる。二人がホームイン。5-0。観客席が大きくざわめき、手拍子と太鼓が甲子園を包み込んだ。

「今の熊谷もさっきの高寺も粘りがすごいですよね」
「うん。高寺も追い込まれてからの四球やからなあ。価値あるわ」

浩哉がスマホの画面を確認する。青白い光が興奮で上気した顔を照らしている。

「あっ、ドラゴンズ負けてる」

これでこのまま勝てば、いよいよマジック点灯だ。スタンドにざわめきが走る。「マジック!マジック!」の声があちこちから聞こえ始めた。

九回表、J-BOYの入場曲が流れ、桐敷が登場。スタンドから大きな拍手が沸き起こる。夜風が少し涼しくなり、正和の額の汗が乾いていく感覚がある。

二人の打者を内野ゴロで打ち取る。観客席の手拍子が徐々に大きくなる。「パンパンパン」というリズムがスタンド全体に響く。

最後の打者モンテロを空振り三振。

試合が決した瞬間、甲子園が総立ちになった。

「やったあああああ!」

4万人の観客が一斉に声を上げ、手拍子と六甲おろし、そして太鼓の音が夜空に響く。球場全体が一つになったような感覚。5-0完封勝利。マジック39点灯。

正和も浩哉も立ち上がり、手を叩き続けた。周りの観客と一緒に六甲おろしの大合唱。汗と興奮で火照った体に、夜風が心地よく吹き抜けていく。

「これは楽しみが多い夏になりそうですね」

浩哉は眩しそうに目を細め、グラウンドに整列する選手たちを見ていた。

夢を見直す瞬間〜黙色スパークの輝き

正和は立ちかけて、ふと止まった。胸の奥で何かが動いている。

「なあ、浩哉」
「はい?」

浩哉が振り返る。興奮で少し息が荒い。

「さっき聞かれた夢の話やけど――」
「ああ、はい」
「ふ、、、55からでも何かできるんやろか」

浩哉が少し驚いたような顔をした。

「俺、甲子園の雰囲気好きっす。おっきい声で応援してるだけで、ちょっと世界広なった気しますもん」
「お前の世界はギターだけやと思とったけどな」
「ギターだけやないっすよ。バンドも阪神も、好きなんは本気です」

浩哉の声に力がこもった。

「本気か。ええなあ――そういうん、俺は長いこと忘れとったな」

正和は空になった缶ビールを握りしめた。アルミの感触が指先に残っている。

「ほな、次こそライブ行かせてもらうわ。お前がここで見てる景色――次は俺が客席から見届けたる」

浩哉の顔がぱっと輝いた。

帰り道、人混みをかき分けながら歩く。試合終了後の興奮で話し声が弾んでいる観客たち。「ええ試合やった」「マジック点灯や」という声があちこちから聞こえる。夜風が汗ばんだ体を涼しく撫でていく。

甲子園球場から離れるにつれ、照明の明るさが薄れ、街灯の黄色い光が道を照らし、アスファルトは夜風に冷やされ、昼間の熱気がすーっと抜け落ちていくようだった。

「オギノさん、黄色と黒のユニフォームって、なんかスパークみたいじゃないですか」
「スパーク?」
「電気が飛ぶやつ。バチッて」

正和は浩哉の横顔を見た。街灯の光で輪郭が浮かび上がっている。この子といると、いつもこうだ。当たり前のものが違って見える。

「黙って見てるだけやと思ってたけど、実は色んなもんがスパークしてるんかもしれんな」

浩哉が「それ、かっこいいっすね」と笑った。

甲子園の灯りが遠ざかっていく。街の向こうで、まだ照明塔がぼんやりと光っている。
正和の足取りは、来る時より確実に軽かった。膝の痛みも忘れている。

胸の奥で、小さな何かが静かに動いた。

「ふ、、、スパークか」

そのひと言とともに踏み出した一歩は、これまでと違う景色へ向かう一歩だった。


夜風が運んできた甲子園の匂いを、正和は深く吸い込んだ。

本日の試合結果

阪神タイガース 5-0 広島東洋カープ

勝利投手 村上 9勝3敗0セーブ

敗戦投手 大瀬良 4勝6敗0セーブ

タイガースにマジック39点灯


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