阪神タイガース観戦記

私は、阪神の話をする〜阪神タイガース観戦記 2025.4.9

甲子園に着いたとき、風が生ぬるくて、まるで人肌に触れたみたいだった。心斎橋のデパートで、いつものように「お似合いですよ」と笑ってる私は、ここにはいない。今夜の私は、3年付き合った彼にふられて、やけ酒気分でビールを握っているだけの、阪神ファン...
阪神タイガース観戦記

勝ち星が遠くても 〜阪神タイガース観戦記 2025.4.8

甲子園に来ると、なんでやろな、ちょっとだけ自分がええ女になった気がするねん。大阪・池田で生まれ育って、今は梅田の美容皮膚科で受付してる。日焼け止めの知識はプロ級やけど、今日は日傘もファンデもなし。推しの才木くんを全力で応援する日には、そんな...
阪神タイガース観戦記

二十歳の夢舞台〜阪神タイガース観戦記 2025.4.6

日曜の朝、代田橋のアパートの天井は、いつもより低く見えた。たぶん気のせいだ。というか、毎日そう感じてるから、もはやそれがデフォルトかもしれない。「帽子、深くかぶりすぎじゃない?」と透に言われたのは、東京ドームに着いてから。キャップにサングラ...
阪神タイガース観戦記

胸のドキドキとテルのホームラン 〜阪神タイガース観戦記 2025.4.5

朝、東京駅に着いたとき、空は少しくもっていて、すこしだけ寒かった。「ま、ドームだから関係ないけどね」って、お父さんが言った。そういうの、ちょっとかっこいいと思った。ぼくは今、小学5年生で、野球がいちばん好きで、大好きな阪神タイガースの試合を...
阪神タイガース観戦記

俺も一本、打てるかな。〜阪神タイガース観戦記 2025.4.4

「……で、黄猿って誰ですか?」新入社員の佐野くんにそう返されたのが、先週の金曜。入社式後の新入社員との懇親会の席で入魂の「おっかないねぇ〜〜」(大好きな漫画・ワンピース黄猿の口真似!)を出した直後だった。沈黙。箸の音。ノンアルコールの炭酸の...
親子と野球

呼びかける声が届くまで 〜阪神タイガース観戦記 2025.4.3

「3人で野球とか、めっちゃ久しぶりやな」そう言って母がチケットを手渡してきたのは、1週間前、実家に帰省した夜だった。「3人」は、母と、僕と、ススムさん。去年の夏に結婚した母の再婚相手で、大工のススムさんは、たぶん不器用だけど、たぶん優しい。...
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うちらの春。〜阪神タイガース観戦記 2025.4.2

「えっ、木浪スタメン!?ちょ待って、今日もう勝ちやん!」試合前からハイボルテージだった。私、川村結衣。今期初観戦。推しの木浪聖也が“7番ショート”で名前呼ばれた瞬間、席で立ち上がってガッツポーズ決めてもうた。となりのアヤカ(近本ガチ勢)は「...
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50歳の春休み、ピッチャーズマウンドの向こうで〜阪神タイガース観戦記 2025.4.1

朝、窓を開けると、少し冷たい風が入ってきた。大阪の春は、こんなふうに曖昧で、あと少しで暖かくなるような、そんな予感をまとっている。桜は咲きかけていて、駅までの道にちらほらと薄紅色が混じっていた。京セラドームへ向かうのは、久しぶりだった。豊中...
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グローブはもうないけれど 〜阪神タイガース観戦記 2025.3.30

退職届を出した日の夜、部屋の棚を整理していた。リストラが名前をかえただけの早期希望退職。42歳になった井坂誠一はふと、あのとき手放したグラブのことを思い出した。高校野球をやっていた頃、毎日泥だらけになって使っていた相棒。手元にはもうないけれ...
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私の帰る町 〜阪神タイガース観戦記 2025.3.29

親友の優子が「チケット、取れたで!」とLINEをくれたのは、ほんの数日前のことだった。広島駅から少し歩いて、昼の光に包まれたマツダスタジアムへ向かう。スタンドに腰をおろしたとき、心が少しざわついていた。大学進学を機にこの街に来て、もう9年。...