【甲子園】阪神が巨人に逆転勝利 森下が勝ち越し打でマジック7 (2025年8月31日)

対読売ジャイアンツ

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試合概要・あらすじ

阪神が巨人を5-4で下し、マジックナンバーを7に減らした。7回裏のラッキーセブンで4得点の大逆転劇を演じ、森下の勝ち越し打が勝利を決定づけた。

京都府園部町で豆腐屋を営む70代後半の父と、東京で暮らす48歳の息子・中澤達郎の物語。久々の甲子園観戦で、息子は「父のそばに戻るべきか、東京で生き続けるべきか」という人生の選択に向き合う。

帰郷-阪神タイガース観戦記2025年8月31日

園部町への帰省

京都府南丹市園部町。JR嵯峨野線の電車を降り立つと、ひと気の薄い駅前に、田んぼと商店街がまだ生き残っていた。
東京の雑踏に慣れた目には、時間が巻き戻ったかのように映る。

けれど駅を出てすぐに気づく。空き家のシャッターが増えている。
帰るたびに人が減っているのは、もはや錯覚ではない。

二日前の夜、父と向き合って久しぶりに食卓を囲んだ。
母が亡くなって三年、偏った食事で暮らしているだろうと勝手に心配していたが、目の前に並んだのはお浸しや酢の物、あっさりした煮物まであった。意外と器用にやっているらしい。

僕が土産に持って帰った肉を鉄板に並べると、父はビール片手に頬をほころばせた。
「おう、ええやんか」

テレビでは阪神×巨人のナイターが流れていた。解説は岡田前監督。
父は肉を焦がしながらも、岡田の言葉にはやたら敏感にうなずく。

「バース、掛布、岡田やなあ。あの頃はほんま強かった」

久々に会った息子よりも、阪神の話のほうが大事らしい。
僕もツッコミは入れず、黙ってグラスを合わせた。

阪神の中継が打ち切られるまで、ふたりは肉とビールと岡田さんのぼやき声に囲まれて過ごした。

豆腐屋の朝と甲子園へ

翌朝も、父は四時前に起き出して豆腐を仕込んでいた。
台所から「ゴリゴリ」という石臼の音、釜から立ちのぼる大豆の甘い香り。

木枠に流し込まれる豆乳が固まりはじめると、湯気とともに真っ白な面が震え出す。
その匂いと音で目が覚める感覚は、東京ではもう味わえない。

毎日同じことを繰り返して七十を過ぎても店を続ける父を、すごいと思う一方で、無理をしていないかと胸の奥がざわつく。
僕ももう四十八歳。父のそばに戻るべきか、それとも東京で生き続けるべきか、そんなことを考えながら目を覚ました。

そして今日、31日。日曜の甲子園。
京都から電車を乗り継ぎ、父と並んで大阪へ向かう。

僕がネットで奇跡的に手に入れた一塁アルプスの席。
ナイターとはいえ、甲子園の夕方は容赦ない暑さが残っている。

父の体調を気にして迷ったが、本人は――

「達郎と甲子園なんか、もうないかもしれへんからな」

重い言葉をあっけらかんと投げられると、返す言葉が見つからない。

京都駅のホームでは、父は落ち着きなく野球の話を続けた。
「今日は才木やろ。もう今年は圧倒的な数字残してほしいなあ」
「パ・リーグは混戦やな。新庄監督の日ハムに頑張って欲しいわ」

僕の方は相槌を打つだけだが、口調は変わらず若い。
まるで昭和の盛り場でスポーツ新聞を広げているみたいだ。

「そういや達郎、お前は亀山が好きやったよな。ユニフォーム買ったもんな」

父は昔のことをよく覚えている。
ただ、買ってもらったのは真弓だった。

細かい訂正を飲み込んで、僕は黙って笑う。

ラッキーセブンの大逆転劇

夕方五時、アルプス席に座った瞬間、顔にまとわりつく熱気に思わず息をつく。
猛暑日だの真夏日だの表現は変わっても、この重苦しさに差はない。

照り返すコンクリート、うねる人いきれ。
豆腐を煮立てる大鍋に自分ごと放り込まれたような息苦しさだ。

スタメン発表。相手の巨人は左腕の横川。
阪神の七番レフトに呼ばれたのは小野寺。先週一軍に上がったばかりの中堅選手だ。

「ほう、小野寺か!」

父の顔がぴくりと動いた。刻まれた深いシワの間から、昔と変わらぬ熱が浮かび上がる。

二回表。五番吉川、六番中山に連打を浴び、才木はノーアウト二、三塁のピンチを背負う。

「あかんて」

父は絞り出すように呟く。序盤とはいえ当然先制点は与えたくない。
迎えた七番リチャードのあたりはセカンド中野への強烈なライナー。
飛び出していた中山が帰塁できず、一気に二アウトが転がり込む。

「ようやった中野」

父が大きく一つ手を叩く。今シーズン攻守を連発する阪神のセカンドが今日もエースを救った。

その裏、阪神も負けじとチャンスを作る。
一アウト二、三塁で今日スタメンの小野寺。追い込まれながらもレフトへのヒットを放ち、満塁に。

「おお、やった小野寺」

流動的なレフトに抜擢された選手がこうして爪痕を残すのは嬉しい。
高いレベルでポジション争いができている証拠だ。

続く打席には坂本。

「ゲッツーだけはあかんで」

父が言い終わったそばから坂本のあたりは六-四-三のゲッツーで攻撃が終わる。
思わず父と目を合わせ、お互い苦笑いした。

気恥ずかしい気持ちでお互いビールに口をつける。

「親父。水も飲まなあかんで」

「大丈夫や。豆腐食べてるから」

自信満々によくわからない答えが返ってきた。

三回裏。一アウト後、近本の四球、中野の安打で阪神はまた得点圏にランナーを進める。

「ゲッツーだけはやめてくれよ」

さっきと同じことを父は言うが、今度は森下がレフトへタイムリーを放つ。

「よっしゃ」

思わず叫んだのは僕の方だった。欲しかった先取点が入った。阪神1-0巨人。

五回裏。ノーアウト一、二塁のチャンスでも点が入らない。
さっきの回というより昨日からずっと残塁祭りだ。

父もゲッツーで才木が二塁アウトになった場面を見て、苦虫を噛み潰したような顔をずっとしている。

すっかり日の落ちた甲子園でも蒸し暑さは変わらない。
少し遠くに打ち上がる花火が見える。

小さな頃はお盆の前後で祭りや花火大会が始まり、幼心に夏の終わりを感じて寂しくなった。
ただ、三十年前とは暑さの質が違う。

ここ数年、まるで終わらない夏を生きているような感じで、この重苦しさは続いていく。

七回表。一アウト後、五番吉川、六番中山で巨人はチャンスを広げる。
続く代打大城のあたりが右中間を破り巨人が一点を返す。

一塁走者中山もホームへ突入するが、クロスプレーはアウト。
巨人阿部監督からすかさずリクエストが入る。

「これはあかん、初回と一緒やん、だから気を付けろって言うたやろ」

父が誰に、いつ言ったのかはわからないが、ビールカップを手に取ったり戻したりと動きが忙しない。
判定は覆らずアウトだったが、続く若林、代打キャベッジにも連打を浴び、阪神はこの回逆転を許す。

阪神1-3巨人。

「あれだけチャンス潰してたつけが一気にきたな」

「ほんまや、嫌な流れやったもん、これは厳しいで」

そう言うと父も大きく頷いて同意した。

七回裏。ラッキーセブン。巨人の三番手中川に対し、先頭の小野寺がこの日二本目のヒット。
まだまだ諦めるわけにはいかない。

巨人に傾きかけた流れを、今度はまたひっくり返さなければ。

続く打者二人が倒れ、意気消沈しかけた甲子園だったが、一番近本に待望のヒットが生まれる。
三十九打席ぶりか何かで、ヒットメーカー近本が一番苦しかっただろう。

「いけるで達郎、この打席でチカは打つって言うたやろ」

父はウキウキで後付けのドヤ顔をこっちに向ける。
押せ押せムードの中、二番中野がセンターへのタイムリー。

阪神が同点に追いつく。甲子園の大歓声に包まれながら見た父の横顔は輝いていた。

さらに森下のレフトへのスリーベース。
四番佐藤のライトへのツーベースと、文字通りラッキーセブンに試合をひっくり返した。

阪神5-3巨人。

アルプス席が総立ちになる中、父は両手を頭上に掲げて「やったー!」と叫んだ。
七十七歳の背中が、その瞬間だけ、不思議と大きく見えた。

 

帰路と問いかけ

試合は巨人が追い上げを見せたが、なんとか5-4で阪神が勝利。
熱狂の余韻が冷めない甲子園で森下のヒーローインタビューを見届ける。
ここから園部まで、また二時間の長旅だ。

「ほないこか」
父は満足そうに立ち上がる。応援歌がまだ響く甲子園を出る時、ふと父に聞かれた。

「東京は楽しいか」

言葉に詰まる。
「ん。別に」
返した言葉は、どこか拗ねた子どものように短かった。

父は笑顔で続けた。
「身体に気をつけろよ」

その言葉が胸に刺さった。
小学生の頃、初めて甲子園に連れてきてもらった帰り道、人混みの中で迷子にならないよう父の手を握って歩いた記憶がよみがえる。
あの時も父は「はぐれたらあかんからな」と僕の手をしっかりと握り返してくれた。
今もあの声の調子と温もりが、胸の奥に残っている気がした。

電車に揺られながら、父がぽつりと呟いた。
「豆腐屋はな、死ぬまでやれる仕事や」

それは自分に言い聞かせているようでもあり、どこか僕に向けられた言葉のようでもあった。
迷い続ける僕への答えを、父なりに差し出しているのかもしれない。

父の横顔を、僕はじっと見つめていた。
白く震える豆腐の面のように、いつか崩れてしまう日常。
その柔らかな輪郭を、今も父は両手で支えている。

窓に映る自分の顔と父の姿が重なり、答えの出ないまま夜の闇に浮かんでいた。

 

本日の試合結果

スコアボード

  1 2 3 4 5 6 7 8 9
巨人 0 0 0 0 0 0 3 0 1 4 13 0
阪神 0 0 1 0 0 0 4 0 X 5 11 0

戦評

阪神は3回裏、森下の適時打で1点を先制するが、7回表には中野、森下、佐藤輝の3者連続適時打が飛び出し、再びリードを奪った。投げては、2番手・島本が今季2勝目。

責任投手

  • 勝利投手:[ 阪神 ] 島本 (2勝1敗0S)
  • 敗戦投手:[ 巨人 ] 中川 (1勝3敗0S)
  • セーブ:[ 阪神 ] 岩崎 (1勝2敗29S)

📌 観戦メモ(持ち込みルール&持ち物)
・球場ごとに飲料容器や容量の規定が異なります。来場前に最新の公式案内をご確認ください。
・傘が使えない席が多いため、雨天時はレインポンチョ推奨。
・暑さ/寒さ対策と両手が空く軽装が快適さの近道です。

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