【甲子園】中日大野に三塁踏めず敗戦 才木・工藤・椎葉の投手リレーも援護なく 阪神0-1中日(2025年9月14日)

対中日ドラゴンズ

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試合概要・あらすじ

中日が投手戦を制した。中日は7回表、一死三塁から石伊の適時打が飛び出し、試合の均衡を破る。投げては、先発・大野が8回4安打無失点の快投。最後は守護神・松山が締め、大野は今季10勝目を挙げた。

敗れた阪神は、先発・才木が好投を見せるも、打線が援護できなかった。

優勝から一週間、浮遊感の続く市民課職員・小松文雄(52歳)が、東京から遊びにきた甥の優吾と甲子園観戦。母から頼まれた牛乳を忘れそうになりながら、自分が母に似ていることに気づく一日を描く。

牛乳を忘れそうな夜に〜阪神タイガース観戦記2025年9月14日〜

優勝の余韻が残る一週間

市民課のデスクで書類に目を通していても、なんだか身が入らなかった。同僚と食堂で昼食をとっていても、箸が進まなかった。

この一週間、小松文雄はずっとこんな調子だった。原因ははっきりしていた。ちょうど一週間前の九月七日の日曜日、甲子園で阪神がリーグ優勝を決めたのだ。おまけにNPB史上最速という記録付きで。

あの日、居間のテレビで母と並んで観ていた最終回。岩崎がマウンドに向かう時に流れたリンドバーグの「every little thing every precious thing」。

藤川監督の現役時代の登場曲を、優勝を決める大一番で岩崎が受け継いだ演出に、文雄は声も出せずに泣いた。五十二歳になって涙腺はどんどん緩くなっている。

──そんな優勝から一週間。この浮遊感はいつまで続くのだろう。

母をデイサービスへ

デイサービスの送迎車に母を見送ったあと、小松文雄はしばらく玄関に立ち尽くしていた。九月の湿った空気が肌にまとわりつく。母がいない家は、やけに広くて、静かだった。

そんな時、階段を降りてくる足音が聞こえた。

「優吾、ようチケット取れたなあ」
「うん。結構苦労した。せっかく手に入れたし、やっぱり見ておきたいからね。神宮球場は父さんと一度行ったけど、おじさんの方が野球好きそうだから」

兄の息子の優吾は幼い時から野球少年で、兄が西宮駅近くの、この実家に帰省するたびにキャッチボールの相手をさせられた。文化系の兄と違い、文雄は高校まで野球部だった。

独身で子どもがいない文雄にとって、優吾とのキャッチボールは父親のような気持ちを味わえる貴重な時間だった。

大学生になってからはさすがにキャッチボールはしなくなったが、こうして阪神の話を普通にできるようになったのは、それはそれで嬉しかった。ちょうど金曜日から、この日に合わせて三日間、遊びに来ている。

八十を過ぎた母は週に数回デイサービスに通っているが、やはり孫が可愛いらしく、ことあるごとに優吾に声をかけていた。

甲子園への道のり

坂道を下りながら、優吾が聞いてきた。「才木どうかな」
「ちょうど一週間前は悔しい登板だったからなあ。タイトルもかかってるし、気合入っとるやろ」

西宮駅から甲子園まで自転車で15分ほどの道のり。優吾の自転車を漕ぐペースは文雄より早く、ついていくのに必死だった。

まだまだ負けたくない。甥っ子にも。若い世代にも。と思いながらも、内心では「ああ、息が上がってる。母さんならここで『無理したらあかん』て言うやろな」――そう思うと、少し笑えてきた。

信号待ちで止まった時、優吾が振り返る。
「近本も昨日のデッドボール気になるしね」
「まあその分、若い選手もがんばるやろ」文雄は息を整えて返事した。

球場に着くと、ようやく肩の力が抜けた。
秋らしくなってきたかと思えば、まだ夕方でも汗ばむ陽気だ。

ホットドッグの匂いがふわりと鼻をくすぐる。あの匂い、母さんも好きやったな。でも最近は塩分が気になるからダメやって言うんよな──そう思いながら、青空と暗く立ち込めた雲が入り混じる不安定な九月の空を見上げる。

一塁内野席に腰をおろすと同時に、スタメンが発表された。

「やっぱり近本は休養やな。小野寺と井坪が観れるんはラッキーや」文雄がつぶやく。
「昨日の小野寺、悔しかったもんな。今日こそ一本ほしいよね」優吾が続けた。

優勝を決めたあと、藤川阪神は次々に新しい布陣を試していた。石井や岩崎を休ませて、ベンチに座っていた若い選手をどんどん送り出す。その姿勢が、文雄には心地よかった。

小野寺や井坪。再昇格したばかりの楠本の打席は楽しみだったし、ピッチャー陣は工藤や椎葉などにも期待していた。

投手戦の中で

阪神先発の才木とドラゴンズの大野は、ともにランナーを出しながらも一回を無失点に抑えていた。

そして二回裏。大山が三振に倒れた後の小野寺の打席。簡単に二ストライクを取られたが、三球目をレフトへ打ち返し、二塁打となった。

「おお、打った打った、これは小野寺も嬉しいだろうな」優吾は満足そうにコーラを飲みながら言った。
「一本出ると違うやろうしなあ、よかったわ」セカンドベースでガッツポーズする小野寺を見ながら返した。

坂本が四球で繋ぎ、打席には井坪。二度目の一軍昇格だったが、初昇格の時より、構えたバットの位置が高くなっているように見えた。
一度目の昇格で何かを感じ取り、修正してきたのだろうか。そんなことを思いながら打席を見つめた。

追い込まれた後もファールで粘ったが、最後は詰まったサードフライ。横で優吾がため息をついた。中日の左腕エース・大野はやはり手強く、今日も攻略は容易ではなさそうだった。

試合は投手戦が続いた。中野の好守もあって、才木は三回から五回まで三者凡退を続ける。一方の大野も、さすがのマウンドさばきで阪神に付け入る隙を与えなかった。

五回裏、一アウト後、井坪の第二打席。大野の外角寄りの球を今度は捉え、センター前へはじき返した。小野寺に続いて井坪にも一本出たのは嬉しかった。

「そういえば井坪のプロ初安打も中日戦だったよね」優吾が隣で口を開いた。

井坪のヒットを眺めながら、文雄の頭に母の姿が浮かんだ。デイサービスから帰って、一人でテレビをつけているだろうか。冷蔵庫を開けて「今夜は何にしようかな」と首をひねりながら、画面に向かって「阪神、勝っとるか?」と話しかけているかもしれない。

解説者に「そんなん誰でもわかるわ」とツッコミを入れている姿も目に浮かぶ。夕飯の支度は済んでいるだろうが、頭の中では「今日の味噌汁は豆腐かな、油揚げかな」と想像してしまう。ああ、そういえば醤油も少なくなっていた。

母を家に残して球場にいることに、ほんのわずかな後ろめたさを覚えた。けれど、すぐに「まあ、たまにはええやろ」と自分を納得させる。
明日は母の好きな煮魚でも作ろうか──そう考える自分に、文雄は苦笑した。

才木が送りバントを決め、井坪は三塁まで進んだが、結局この回も得点は入らなかった。

六回表。先頭の岡林にヒットが出て、四番細川には四球。才木はツーアウト一・二塁のピンチを背負った。球数も百を超えた中盤六回、踏ん張りどころだった。

福永への五球目。ストレート勝負の結果はセンターフライ。切り抜けた才木はマウンド上で小さくガッツポーズを見せた。
「ふう、危なかったなあ。凌いだか」マウンドを眺めながらつぶやいた。

七回表。先頭のボスラーにライト線を破られ、二塁打。山本の進塁打で一アウト三塁のピンチ。三塁まで進まれたのはこの試合初めてだった。

八番石伊への初球。外角の球を逆らわずライトへ運ばれ、中日が先制した。阪神0-1中日。

「この流れで先制されるのは厳しいなあ。大野を打てる気がしないし」優吾が祈るように呟いた。文雄もまったく同じ気持ちだった。緩急自在の相手先発に、ここまで完璧に手玉に取られていた。

八回表。才木に代わってマウンドには工藤。春先以来の一軍登板だった。悔しかったファームでの経験を、ぜひここでぶつけてほしかった。

その願い通り、中日のクリーンナップ上林・細川・福永を三者連続三振に斬ってとった。
「こういうのがええねん」思わず声が出た。やっぱり三振を取れるピッチャーは魅力的だ。上々の再デビュー登板だった。

九回表には、この日一軍に昇格したばかりの椎葉が上がった。先程の工藤の好投を引き継ぐように三者凡退で切り抜けた。
「これ、工藤や椎葉が覚醒したら来年も楽しみだね」優吾はそう言ってコーラを飲み干した。
「全くや。右のブルペン陣がドラフトで充実してくるのはホンマに夢があるわ」

一点差の僅差ゲーム。大甲子園で投げたこの経験は、二人の今後にきっとプラスになる。できればこの先も登板機会が続いてほしかった。

九回裏。大野に代わった中日の守護神・松山の前に、阪神のクリーンナップはなす術なく討ち取られた。最後の打者・大山のショートゴロを、スタンドの落胆の声に包まれながら見届ける。阪神0-1中日。

ドラゴンズ大野のヒーローインタビューに、文雄は妙な既視感を覚えた。そういえば前回対戦も同じように、大野にやられていた。

技巧派のベテラン左腕を打ち崩せない。それはここ数年のタイガースの課題の一つでもあった。

牛乳を忘れそうな夜

球場を出て、自転車を漕ぎながら、文雄は汗をぬぐった。今日は負けたけど、なんだか気分は悪くなかった。優吾との時間も楽しかったし、若い選手の活躍も見れた。何よりリーグ優勝してるという絶対的な事実がそうさせていた。

商店街に差し掛かった時、文雄はハッとブレーキをかけた。
あ、牛乳や──昨日、母に「明日牛乳買ってきてな」と言われてたのを、すっかり忘れていた。

「優吾、ちょっとスーパー寄ってええか」
「いいよ、何買うの?」
「牛乳。母さんに頼まれてたの、すっかり忘れてた」

スーパーの冷蔵コーナーで、文雄は牛乳を前に立ち止まった。安いプライベートブランドの牛乳と、少し高めの成分無調整。母さんはどっちがええんやったっけ。

そういえば、いつも母さんはスーパーで牛乳の成分表示をじっと見て、「どれがええんやろ」なんて悩んでたな。

「おじさん、どっちでもいいじゃん」優吾が苦笑いを浮かべる。
「そうは言うてもなあ……」

文雄は成分無調整を手に取りながら、眉をしかめて笑った。
牛乳切らすなんて、阪神のブルペン切らすくらい深刻やな。

結局、自分も母親とまったく同じやないか。甥と野球で盛り上がった帰り道でも、気づけば明日の味噌汁や牛乳のことを考えている。

「ほんま、母さんに似てもたわ」
「それって悪いことなの?」優吾が振り返る。
「悪いことちゃう。ただ……おもろいなあ」

今日の敗戦も、忘れそうになった牛乳も、ぜんぶ抱えながら、これからも母と暮らしていく。

――少し涼しくなった夜風が、火照った頬を冷ましながら、ペダルを漕ぐ二人の背中を押していた。

本日の試合結果

スコアボード

1 2 3 4 5 6 7 8 9
中日 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 7 0
阪神 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 4 0

責任投手

  • 勝利投手:[ 中日 ] 大野 (10勝4敗0S)
  • 敗戦投手:[ 阪神 ] 才木 (12勝6敗0S)
  • セーブ:[ 中日 ] 松山 (0勝1敗41S)
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2025年春夏・阪神物語アーカイブ(vol.1&2) 公開中
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