【神宮球場】ヤクルトに連敗 8回ドリスが被弾でヤクルト勝ち越し 才木打球直撃のアクシデントも 阪神2-3ヤクルト(2025年9月22日)

対ヤクルトスワローズ

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TIGERS STORY BLOGは、阪神タイガースの試合を“物語”として描く観戦記ブログです。

毎回異なる人物の視点から、勝敗にとらわれず心の揺れや日常の断面を言葉にしています。 “試合を知らなくても読める”、そんなブログです。

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試合概要・あらすじ

神宮球場でヤクルトと対戦した阪神は、佐藤輝明の39号ホームランや前川右京のタイムリーで2-0とリードしたものの、5回裏に同点に追いつかれ、8回裏にオスナの決勝ホームランで勝ち越しを許し2-3で惜敗した。才木浩人が6回に打球を足に受け途中降板するアクシデントもあった。

就活に苦戦する関東出身の大学4年生・田宮圭人が、内定を決めた関西出身の友人・山田康平と神宮球場へ。元阪神の青柳晃洋と現エースの才木浩人、真逆の境遇の二人の投手を見つめながら、自分自身の進路について考える夜。曇り空の下で繰り広げられる、就活生の心の機微を描いた青春物語。

曇天〜阪神タイガース観戦記2025年9月22日〜

就活の迷い空

昨日の試合は、見ているだけで疲れた。

伊藤将司はピリッとしないし、打線も湿ったまま。優勝は決めたものの、この調整ぶりでクライマックス大丈夫かと不安になる。

おまけに東京はずっと曇天。まるで「お前の就活もこんなもんだ」と空に突っ込まれている気分だった。

二度も中断を挟む泥試合、それでも最後までテレビを消せない。虎ファンの悲しい習性だ。負け試合に三時間つきあうぐらいならES一枚書けって、自分で自分に突っ込んだ。

唯一の救いは、茨木や中川のプレー。プロ三、四年目、同世代が輝く姿は嬉しい。

でも同時に「なんで自分は」と焦りが募る。

この前だって面接でやらかした。

——『志望動機は?』

シルバーフレームの細い眼鏡を光らせた担当者に訊かれ、つい眼鏡の細さばかりに気を取られてしまった。慌てて「御社の社風に感銘を受け…」と言うと、「どの部分ですか?」と追撃される。

頭が真っ白になって——『オフィスが禁煙なところです』

面接官の表情が固まる。慌てて挽回しようと「あと、自販機のラインナップが豊富で…」と続けたが、これもアウト。

沈黙が流れた後、絞り出すように——『……メガネ、素敵ですね』

採るわけない、こんな奴。

別の会社では最初の自己紹介で声が裏返ったし、やたら椅子が低くて膝が顎に当たりそうになった面接もあった。

一体何がダメなのか。履歴書は真面目に書いてるし、SPIもそれなりに解ける。なのに三十社近く受けて内定ゼロ。

バイト先のコンビニでは、同世代の後輩が——『圭人さん、就活どうなんですか?』

無邪気に聞いてくる。

「まあね」と苦笑いで返すしかない。このまま就職できなかったら、俺はずっと深夜のコンビニの蛍光灯の下に立ち続けるのか。

信濃町での待ち合わせ

そんな惨めさを抱えたまま、信濃町の改札で康平を待った。

改札を抜けてくる姿は、僕とは真逆だった。

康平は関西から出てきて、同じ大学の野球サークルに入った奴。持ち前の調子の良さで、すでに半導体関連の営業職から内定を勝ち取っている。

「よう圭人。暗い顔してどうしたん」

関西イントネーションで屈託なく声をかけてくる。

「そりゃ暗くもなるよ。内定ゼロ、持ち駒ゼロだし」

僕が投げやりに返すと、康平は——

「まあ、就職だけが全てやないって」

軽く笑った。その顔を見たら、不思議と少しだけ気が抜けた。

チケットは康平が取ってくれていた。

「で、今日の席どこや思う?」
「外野じゃないんだろ?」
「せや、三塁阪神側の内野。ちゃんと取っといたで」
「助かる。やっぱりそっちの方が落ち着いて観られるな」

神宮球場へ向かう道すがら、康平は相変わらず調子よく喋り続ける。

「ところで圭人、今日の先発知ってる?」
「才木だろ?」
「ヤクルトの方や」
「…わからん」
「青柳だよ」

ああ、そうか。去年まで阪神のユニフォームを着ていた青柳晃洋が、今日はヤクルトの投手として立つのか。

「なんか変な感じだなあ」と僕が呟くと、康平が——

「せやろ?でもまあ、人生色々あるってことやん」

と返した。

球場が近づくにつれて、虎党の姿がちらほら見えてくる。平日のナイトゲームにも関わらず、それなりの人出だ。みんな仕事帰りなんだろうな。スーツ姿のサラリーマンが多い。

僕もいつか彼らの仲間になれるんだろうか。

「あ、そうそう」

康平が思い出したように言った。

「今度の土日、会社の内定者懇親会があるねん」
「へえ」
「ボーリングやって、BBQやって、一泊二日の合宿や。楽しみやわ」

聞いてもないのに詳しく教えてくれる。こういうところが康平らしい。悪気はないんだろうが、内定のない僕にはちょっとキツい話題だった。

でも康平にとっては、きっと人生で初めて「社会人になる実感」を味わっているのだろう。関西から一人で出てきて、必死に頑張った結果なのかもしれない。

「まあ、関西に戻れんのはちょっと寂しいけどな」

康平がポツリと呟く。普段明るい康平の、珍しく影を帯びた横顔だった。

「そうだな」と僕は答えた。

――――

球場に入ると、鉛色の空が球場全体を覆っていた。ナイター設備の明かりが雲に反射して、妙にぼんやりしている。

まるで僕の就活状況そのものみたいだ。

「なんか今日、空気重いなあ」
「天気のせいやろ」

康平が空を見上げる。

「でも雨は降らなそうやし、よかったよかった」

康平が取ってくれた三塁阪神側内野席に陣取る。平日とはいえ、それなりに人が入っている。隣の席には眼鏡をかけた中年のサラリーマン。よく見ると、この前の面接官と同じようなシルバーフレームだ。

――もしかしてあれって今流行ってるのか?そんなことを考えていると

「お疲れさまです」

その人が会釈してきた。まるで職場で交わす挨拶みたいで、思わず僕も同じ言葉を返した。

――――

さっそく康平が売り子さんを呼んで生ビールを二つ注文した。

「まあまあ値上げやなあ」

――やっぱり言った。毎回同じリアクション。でも、この安定感が康平らしくて嫌いじゃない。

康平は典型的な”調子のいい内定持ち”。面接が終わると即サークルLINEに「受かったわ」のスタンプを三連投。会うたびに「これ就活スーツちゃうねん、社会人先取りコーデや」と謎に誇る。

前に神宮で観戦したときも、ビールを受け取るなり「まあまあ値上げやなあ」と売り子さんに真剣にツッコんでいた。

悪気はない。ただ、無邪気に明るいのだ。

青柳と才木の対比

康平が声を弾ませる。
「青柳が敵やなんて、不思議なもんやな」

去年まで阪神のマウンドを守っていた投手が、今夜は敵チームの先発として立つ。妙な違和感がある。

「ついこの前までタイガースの背番号17やったんやで。変な感じやろ」
康平が笑う。

ブルペンでは才木が投げ込んでいる。自己最多勝がかかり、未来を背負わされる若きエース。遠からずメジャーに行くだろう。

一方の青柳は——ポスティングで海を渡ったが結果を残せず、わずか半年で帰国。それでも背番号99を背負って再び日本のマウンドに立つ。

挑戦して戻ってきた者と、これから羽ばたいていく者。

僕は二人を見比べて考える。どちらに自分を重ねるべきなのか。いや、そもそも比べる意味があるのか。

「俺らって、どっちタイプなんだろうな」

ふと口にすると、康平は即答した。

「才木でも青柳でもない。売り子さん待ちタイプや」

康平の視線が売り子さんを追っているのを見て、思わず笑ってしまった。

曇天の下でも、康平だけはやけに晴れて見えた。

――――

試合開始のアナウンスが響く。いよいよ始まる。


一回表、コントロールが課題の青柳に対し、二番中野は粘った末にレフト前ヒットで出塁。

「おっ、いきなりだ」
康平が身を乗り出す。

一気に畳み掛けたい場面だったが、三番森下がゲッツーで打ち取られた。

「立ち上がり点欲しかったよな」
康平が悔しがる。

――――

ただ青柳の立場としては阪神戦だからこそ絶対抑えたいだろう。2021年、2022年は虎のエースとして大車輪の活躍をし、2023年の日本一にも貢献した虎の元エース。
古巣相手に存在感を示したい思いは強いはずだ。

――――

二回表、この回先頭の四番佐藤。
ここ最近の体調が気にされるが、そんな僕の不安をよそにコツンと当てただけに見えた打球が僕らの視線をあっという間に超え、虎党の待つレフトスタンドへ吸い込まれた。

「まじか…」

説得力抜群の主砲の一発に言葉を呑んだ。四十号までいよいよあと一本に迫る三十九号ホームランだ。

阪神1-0ヤクルト。

「あれやなあ」
康平がビールを一口飲んで言った。

「期待されることって、しんどいけど幸せなことかもしれんなあ」

「どういう意味?」

「だって誰も期待してくれへんかったら、それはそれで寂しいやん」

――――

確かにそうかもしれない。僕は誰からも期待されていない。親からは「早く就職しろ」と言われるだけ。でもそれは期待というより、単なる心配だ。

四回表、佐藤が四球で出塁の後、五番前川がバッターボックスに立つ。

「前川頼むで」
康平が身を乗り出す。

前川の打球は左中間を割るツーベース。佐藤がホームへ駆け抜け、阪神に追加点が入る。

「よっしゃ前川、よく打った」
隣の席で焼き鳥を頬張る眼鏡の中年男性が叫ぶ。そう、あのシルバーフレームの人だ。

「圭人もあんな風にここぞで打てたらなあ」
康平が茶化すように言う。

「野球と就活を一緒にするなよ」

「でも似てるやん。チャンスで凡退か、タイムリーか」

――――

確かにそうかもしれない。本来今年はレフト前川が大方の阪神ファンの予想だったが、不調の間に高寺や中川が台頭し、思うようなシーズンではなかった。
それでもここぞという場面で結果を出す。僕にもそんな瞬間が来るだろうか。

――――

四回裏、阪神は早くもポジション変更をする。森下に代わって一塁に糸原を入れ、前川はレフトへ。高寺はライトへ移動した。森下は怪我ではないか心配されるが、これも藤川監督の考えあってのことなんだろう。
この回先頭の長岡にヒットを許すが、ギアを上げた才木は後続を力強いストレートで打ち取る。

「志が違うよなあ」
思わず出た一言に、康平が反応する。

「なんやねんそれ」

「いや、今年の才木のピッチング。なんかもう絶対メジャー行ってやるって覚悟があるもん」

――――

一年間阪神のローテーションを完走した才木は、常に自分と戦っているような気がする。もちろんそれで球数が嵩んだりもしたが、それも含めて紛れもない今の阪神のエースだ。

「で、圭人の志はなんやねん」
康平が意地悪い目で覗き込んでくる。

すぐに答えは思い浮かばない。「メジャー挑戦」と冗談でも言いたいところだが、このまま面接にすら落ち続けている僕を拾ってくれる企業なんてあるのだろうか。

――――

見上げると、曇天だった神宮の空は漆黒に変わっている。対比で強烈な光を放つナイターの明かりが、重い雲を照らし出していた。

五回裏、好調の山田がツーベースを放ち、中村もヒットでチャンスを広げる。巡ってきたチャンスに一気に盛り上がるヤクルト側のライトスタンド。順位関係なく応援の熱がすごい。
続く岩田の当たりはファーストゴロだったが、ファースト糸原が悪送球で一点が入る。

阪神2-1ヤクルト。

なおもノーアウト二・三塁の場面。代打濱田を打ち取るも、太田のライトへの大飛球が犠牲フライとなり同点に追いつかれた。

阪神2-2ヤクルト。

――――

「あぶねー、今の。高寺ナイスやん」
盛り上がる東京音頭の響き渡る球場で、音をかき消すように康平が言う。

「うん。とにかく今のままだと才木に勝ちつかないからな、打撃陣が挽回して欲しい」

六回裏——

先頭の内山がツーベースで出塁後、四番北村の強烈な打球がマウンドの才木の足あたりに直撃する。打球は大きく跳ね、サードの佐藤が処理したが、ダイヤモンドで痛みに蹲るエースに対し、大きな悲鳴とどよめきが神宮から湧き上がる。

――――

才木は足を引きずりながらベンチへ下がる。

「これどうするんだよ」
隣の席のシルバーフレームの男性が、今度は焼き鳥から手を止めて誰ともなしに声を上げた。

その通りだ。この試合のことだけじゃない。我々にはこれからクライマックスシリーズが待ってるのだ。三塁側阪神ファンの心配は大きな波紋となって広がり、神宮全体を包み込む。
ブルペンでは畠が急いで肩を作っているのが見える。

「とにかく大事にならないで欲しいな」
隣の康平がそう絞り出したとき——

ベンチから——才木が出てきた。

湧き上がる阪神ファン。間違いなく今日一番の大歓声が、大きな拍手とともにエースに注がれる。

――――

だが二、三球投げたところで、安藤コーチとともに才木はベンチに下がり、ピッチャーは畠に交代。無念の降板の才木に、さらに大きな拍手が送られた。


まるで何かを暗示するように、空を見上げると、曇りが一層濃くなった気がした。

「震えたよ」
そう康平に話しかける。

「あれがエースの姿勢なんだよな。あれが志の高さなんだよな」

僕の目は潤んでいたかもしれない。

「うん。あの才木の姿見て、今日は絶対負けられなくなった。これで気合入らんかったら嘘や」
康平の声もどこか震えている。

――――

それだけ才木の見せた行動に僕らは心を動かされた。

八回裏——

才木の降りたマウンドを畠、及川が守りきり、この回からはドリスがマウンドへ。

「ここが正念場だな」
康平が呟いた時だった。

二アウト後、ヤクルトの五番オスナが振り抜いた打球は、一直線に伸びレフトスタンドへ突き刺さった。観客席から悲鳴が上がり、反対の一塁側はヤクルトファンの歓喜に包まれた。

阪神2-3ヤクルト。

――――

「厳しいなあ」
言葉を絞り出すように振り絞る。
夜空にこだまする東京音頭に、僕らの声はかき消されそうになる。
才木があれだけ体を張ったのに、こんな結末になるなんて。

九回表、小幡がヒットで一矢を報いるが、後続が続かずゲームセット。ヤクルト相手に悔しい連敗となった。

阪神2-3ヤクルト。

曇天の下で

試合終了後——

今シーズン神宮の最終戦ということで、藤川監督をはじめ選手全員がレフト側に整列し、ファンに手を振る。優勝を決めてくれた虎将へ万感の「球児コール」が送られる。

僕らも球児コールを声を揃えて送り席を立つ。

「あっ才木だ」

思わず声が大きくなる。選手たちから少し遅れて、途中降板した才木が足を痛そうに引きずりながら現れた。
その姿に胸が熱くなったが、まだ泣くのは早い。

リベンジの相手はヤクルトじゃない。クライマックスシリーズだ。

球場を出る途中、康平が言った。

「結局、青柳も才木も、それぞれの道を歩んどるだけやんな」

「どういう意味?」

「比べる意味あるんかってこと」

信濃町の駅に向かう道すがら、重い曇り空を見上げた。

明日も曇りかもしれない。でも、その向こうには必ず青い空がある。

就活はまだ続く。

僕は曇り空の向こうに、まだ見ぬ未来を探しながら歩いた。

本日の試合結果

スコアボード

1 2 3 4 5 6 7 8 9
阪神 0 1 0 1 0 0 0 0 0 2 7 1
ヤクルト 0 0 0 0 2 0 0 1 X 3 8 0

責任投手

  • 勝利投手:[ ヤクルト ] 荘司(2勝1敗0S)
  • 敗戦投手:[ 阪神 ] ドリス(2勝2敗0S)
  • セーブ:[ ヤクルト ] 星(1勝2敗14S)

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