試合概要・あらすじ
2025年7月12日、「ウル虎の夏2025」イベント開催の甲子園球場。33度の猛暑の中、阪神タイガースはヤクルトスワローズを迎え撃った。先発は阪神がデュプランティエ、ヤクルトは45歳のベテラン石川雅規。石川の老獪な投球術に苦しめられ続けてきた阪神だが、この日は4回裏に石川を攻略し逆転。8回にはダメ押しの2点を追加し、5-2で勝利を収めた。
この試合を観戦したのは、45歳の配送ドライバー田所俊二と中学2年生の娘・千夏。昔は一緒に応援していた父娘だが、思春期を迎えた千夏は父親との距離感に複雑な思いを抱いている。猛暑の甲子園で繰り広げられる投手戦と、父娘の心の距離を描いた観戦記。
夏は、はじまった。〜阪神タイガース観戦記2025年7月12日〜
投手戦の幕開け〜序盤戦
阪急十三駅前の自転車置き場。夜勤明けの配送ドライバーたちがバイクを止める音がうるさい。
田所俊二、45歳。私の父ちゃん。ヘルメット脱いだ頭がぺしゃんこになっとる。
「千夏、行くで。今日は暑なるで」
声をかけられて頷く。前は手を繋ぎたがったのに、もうつながん。
中2になった私は父ちゃんの背中を目で追うだけ。
電車の中、缶ビール開けて膝をトントン叩いとる。阪神の試合見る時の癖や。六甲おろしのリズムに合わせて、ポンポンポンって。嬉しそうな顔してる。私は窓の外見ながら、その音を聞いとる。
昔は一緒に叩いてた。今はもう叩かん。叩けん。
甲子園前駅で降りたら、むわっとした暑さと黄色いユニの波。急に早足になる。
知らんおっちゃんに「今日は勝ちますかねぇ」って声かけられて、嬉しそうに「勝つで!デュプランティエがおるからな!」って大きな声で答えとる。
声でかすぎやねん。私は心の中で舌打ちした。
おっちゃんがにこにこしながら「頼もしいお父さんやなあ」って私に言うた。
私は照れくさくて返事できん。
今日は「ウル虎の夏2025」のイベント試合。プロ24年目を迎えるヤクルト石川雅規。老獪な投球術は健在で、阪神はいつも苦労する相手や。今季も阪神からきっちり2勝しとる。一方、阪神先発デュプランティエも素晴らしい投球でここまで勝ち星を重ねてきた。昨日連勝がストップした阪神、ずるずるいかずきっちり白星をあげられるか。
この石川と外国人エースデュプランティエの対戦、めったに見られへん贅沢な投手戦になりそうや。
一塁側アルプス席に座る。33度の暑さでプラスチックの椅子が熱い。
父ちゃんは汗だくで小さい阪神の旗を膝に置いた。前に座った年配のおばあちゃんが振り返り、
「暑いですねえ」って言うと、
「大丈夫ですか?うちわ持ってきてますよ」って自分のうちわを差し出してた。
おばあちゃんは「ありがとう、優しいお父さんやねえ」って私に言うた。
私は照れて下を向いた。
「一緒に応援するか?」
私は首を振る。「一人でええ」
なんで父ちゃんって、いちいち子供扱いするんやろ。もう中2やのに。
顔が少し曇った。「そうか」って言うて前を向いたけど、膝の上の旗をそっと私の方に寄せた。
1回の表。デュプランティエは先頭の岩田を三球三振。続く武岡も三振に打ち取り安定のスタート。
「ええピッチャーやなあ」って今度は隣のおじさんに話しかけとる。
1回の裏。「さあ石川攻略や」って父ちゃんの鼻息は早くも荒くなる。先頭の近本がヒットで出塁。中野が送り得点圏でクリーンナップ。
これは今日こそ期待できると思ったが、森下、佐藤を打ち取られて、悠々とベンチに引き上げるヤクルトの背番号19。
隣で父ちゃんが、がくっと肩を落とす。私も同じ気持ちやった。
「石川の2勝は全部阪神が献上しとんねん」
うだるような暑さでペースが早くなるお酒のせいか父ちゃんの目は充血してきた。
真剣に悔しがっとる。
3回裏。石川に飄々と打ち取られる阪神打線。
「俺は阪神の連勝が止まるなら、この石川の日やと思っててん」
ドヤ顔で言うけど、まあ後付けやな。私は苦笑いした。
そういうところが父ちゃんらしい。
膝をトントン叩く音だけは、隣でずっと響いとる。
石川攻略〜逆転劇
4回表。デュプランティエが先頭の内山に四球を与え、続くオスナにツーベースを打たれる。太田のセンター前タイムリーでヤクルトが先制。阪神0-2ヤクルト。
「やっぱり先頭打者の四球って嫌なもんや」
達観した顔で唐揚げを頬張りながら言うけど、それくらい私にだってわかる。さっきから当たり前のことをもっともらしく言うてるだけや。
うっとうしいなあ。そう思いながらも、父ちゃんが必死に解説するのを聞いてる。
4回裏。石川をついに捉える。先頭中野のヒット。森下の四球。佐藤もヒットでノーアウト満塁。
「ここで取らな、絶対あかん」
父ちゃんは力んで立ち上がる。膝を叩くリズムが早くなった。汗だくの背中が必死や。
大山の放った打球はライトへ。2点タイムリー。続く小幡もライト前へタイムリーで阪神逆転。阪神3-2ヤクルト。
「よっしゃー!やったやった!」
父ちゃんは涙目になって叫んどる。隣のおじさんとハイタッチして、さっきのおばあちゃんにも「勝ちましたよ!」って報告しとる。
どんだけ気が早いねん。私は心の中で突っ込んだ。
そんな姿を見てたら、複雑やけど誇らしくて、私も拍手した。心の中では同じくらい嬉しかった。
知らん人たちと「石川やっつけたで!」って話しとる。そのうちの一人が「お嬢ちゃんも阪神ファンか?ええお父さんに連れてきてもろて幸せやなあ」って私に言うた。
私は照れて下を向いた。「こいつ、最近あんまり一緒に応援してくれへんのやけどな」って苦笑いしながら私の頭をぽんと叩いた。
その時や。
私の心に、はっきりと浮かんだ。
ああ、私、父ちゃんのこと好きやねんな。
さっきまで「うっとうしいなあ」って思ってたのに。
恥ずかしいとか、子供っぽいとか、そんなんどうでもよくなった。ただ、あの人が寂しそうにしてるのは嫌やった。
石川がマウンドを降りる。
数年越しに、ようやく攻略できた。
2番手の松本を相手に1アウト2・3塁とチャンスは続くが、豊田がゲッツーに討ち取られこの回は終了。追加点を期待していたウル虎の甲子園は萎む。
7回表。ランナーを出しながらもデュプランティエは本領発揮。打たせて取ったり、ランナーが出ると三振取ったり。ありがたい助っ人や。
勝利への道のり〜大人への階段
8回裏。ヤクルトはこの回から4番手のピッチャー阪口。
簡単に2アウトを取った後、大山が四球で出塁。
さらに小幡の左中間への2塁打で1点を奪う。
坂本のライトの頭を超すスリーベースで点差を広げた。
阪神5-2ヤクルト。
ようやく心の底からほっとできる点差になった。
父ちゃんは隣のおじさんと肩組んで「決まったな!」って喜んどる。
興奮して膝を叩くリズムがめちゃくちゃ早くなってた。
私は一人で拍手した。肩は並んどるのに、どこか遠い。
9回表。ピンチを招くも岩崎が抑えて阪神勝利。
「ほらみろ」
父ちゃんは誇らしげやけど、何が「ほらみろ」なんかよくわからん。でもこの人の顔を見てたら、今日甲子園に来てよかったと思った。
昨日の負けで連勝が止まった時、この人は、まるでこの世の終わりみたいに嘆いてたけど、
まだ梅雨が開けたばかり。
熱くワクワクする季節に、やっと足を踏み込んだところや。
試合が終わって球場を出ながら、私は考えとった。
友達には月曜日、きっとこう話すやろな。
「父ちゃんが『俺は知ってた』って後付けで言うて、
『ほらみろ』って何がほらみろなんかわからんくて笑った」
笑い話にして、みんなで笑うんやろな。
でも本当は、父ちゃんがどれだけ本気で阪神を愛してるか知ってるから、私も嬉しかった。
その気持ちは、友達にも母ちゃんにも言わん。
帰りの電車で、私は思っとった。
ほんまは父ちゃんと一緒に叫ぎたかった。
でももう、あの頃みたいに肩くっつけて飛び跳ねる年ちゃう気がした。
これが成長するってことやろか。
でも、大人になるって、父ちゃんから離れることやない。
違う形で、父ちゃんを大切に思うことなんかもしれん。
家に帰ったら、母ちゃんが「どうやった?」って聞いてくれるやろな。
「阪神勝ったで。父ちゃんが喜んでた」
そう答える。私も嬉しかったことは言わん。
私の心の中で、何かが変わり始めた。
父ちゃんとの距離も、愛情の形も。
でも、それは終わりやない。
私はもう、一緒には叩かん。
でも父ちゃんの膝を叩く音は、
きっとこれからも私の中で鳴り続ける。
私の夏が、はじまったんや。
本日の試合結果
阪神タイガース vs ヤクルトスワローズ(2025年7月12日・甲子園)
最終スコア:阪神 5-2 ヤクルト
勝利投手:デュプランティエ(6勝3敗) 敗戦投手:石川雅規(2勝3敗) セーブ:岩崎(0勝2敗20S)
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