阪神1-3ロッテ 才木粘投も逆転負けで7連敗 – 甲子園【2025年6月17日】

阪神タイガース観戦記
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TIGERS STORY BLOGは、阪神タイガースの試合を“物語”として描く観戦記ブログです。

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2025年6月17日、甲子園で行われた阪神対ロッテの試合は、阪神が1-3で敗れ、7連敗を記録した。試合は、阪神が1点を先制するも、7回表にロッテが追いつき、続く藤原のタイムリーで逆転され、そのまま試合終了。クリーンナップに快音は響かず、痛い敗戦となった。
元同僚の真帆と夏美は、久しぶりに再会し、甲子園で阪神の試合を観戦することに。試合を通して、二人は過去の悩みや同期であった南野の辞職について話すことになる。連敗中の阪神を見守る中で、彼女たちの心情も揺れ動き、試合の終わりと共に少しずつお互いの思いが整理されていく。

今日はなかったことに〜タイガース観戦記2025年6月17日

梅田のコンコースを抜けてきた風は、もう夏のにおいがしていた。

でもそれは爽やかとかそういうのじゃなくて、じっとりとまとわりつく湿気に、排気ガスと焼けたアスファルトが混ざったような、正直ちょっとだけ辟易する重さだった。

「ごめん、待った?」

そう言って笑ったのは、渋沢夏美。 29歳。
2年前に福岡の営業所へ異動した営業職をしている同期で、今日はせっかく夏美が来るので、わたしがチケットを取った。

「全然。てか、よく来たな今日、こんな湿度の日に」

「福岡もっとすごいで。今週ずっと髪が言うこと聞かへんかった」

笑いながら、わたしたちは甲子園行きの電車に乗った。
途中で買ったコンビニのビールを手に、汗を拭いながら。

「しかし阪神、負けすぎやろ……6連敗って何よ」

「勝ち方忘れたわほんま」

「今日は才木くん完投してくれるって信じてるけどな。希望込みで」

「私は頭痛い。なんかチームと連動してんねん、体調が」

言葉の端々に、昔と変わらない温度があった。
一緒に働いていた頃、定時ダッシュでコンビニ前で缶チューハイを開けていた時間を、ほんの少しだけ思い出した。


甲子園の駅前に出た瞬間、夏美がちょっとだけ黙った。
見慣れたアーケードと、照明塔。その奥にうっすら見えるスタンド。
もう何度来たかなんて数えてないはずなのに、彼女の足がちょっとだけ止まったのを、わたしは見逃さなかった。

「わ、懐かしい。やっぱうるさいな、ここの空気」

「ええ意味で、な」

「うん。あと、チケット高かったやろ?」

「ちょっとな。でも、せっかく久しぶりに帰ってきたんやし」

「ごめんな、真帆」

「ええよ。たまには“値上げ”も必要やろ。いろいろ」

わたしはそう言いながら笑ったけど、
夏美の視線は、何かを探してるみたいに遠くを見ていた。


3塁側アルプスの席に着くころには、シャツの背中はびっしょりだった。
ブラウスの上から汗が滲んで、もう何度も団扇をあおいでるのに、空気は動かない。
そのくせ球場全体は、あの“ざわめきのアイドリング音”で満ちていて、ちょっとだけ頭がくらくらした。

「今日点入ったら祝杯レベルやな」

「いやほんまそれ。1点取ったらタオルぶん回すで」

「真帆、まだ営業部?」

「一応な。チーム変わったけど、まあ似たようなもんや」

「部長は? まだ“改善が必要だ”って語尾キメてんの?」

「語尾どころか、全身でキメてくるわ相変わらず」

「くっそ、懐かしいな。あいつ“成長角度”って単語好きすぎやねん」

わたしは吹き出した。
そんなん、言われてたなあ。あの頃は。

「そういや、南野ってまだおる? 同期の、わたしらと一緒に入った子」

「……ああ、南野な。……6月入ってすぐ、辞めた」

「え、まじで」

「うん。急やった」

「部長の圧も、あのままやったん?」

「まあ、相変わらずやったな」

「……そうか」

わたしは少しだけ、飲みかけのビールを揺らした。

「たぶん、わたしらが勝手に“おって当然”って思ってただけなんやと思う」

「……」

「誰も何も言わん空気って、一見“応援してる”みたいやけど、実は逃げ場ふさいでるだけなんかもな」

夏美は少し黙った。


3回裏、阪神が先制したときは思わずタオルを握りしめた。
近本、中野の連打で1点。
「こういうのでええねん」って、ほんまにそう思った。
才木君が好調やったから、1点あれば今日は粘れる気がしてた。

でも、試合はそううまくいかん。

7回、黒いユニフォームがざわつき出す。
角中のピッチャー強襲の内野安打で追いつかれたとき、夏美は無言で紙コップの残りを一気に飲み干した。

「なんか不穏な空気やん」

わたしも、何か言おうとして、やめた。

続く藤原のレフトへの2点タイムリーで逆転されたとき、球場の空気も一気に反転した。
あんなに“アイドリングしてた”ざわめきが、今度は重さに変わる。
ちょっとした野次さえ、耳に刺さった。

「才木くん、よう投げたよな」

夏美がそう言ったとき、たぶん彼女の中ではもう“次”に向いてたんやと思う。

その少し前、才木が先頭の出塁を許したあたりから、レフトスタンドのマリーンズファンが一気に膨らんできてた。まさにロッテにとってのラッキーセブン。

「声だけの応援か、やっぱロッテの応援って圧あるよな」

「ほんまにな。千葉やったらぞっとするな」

ロッテの応援、やっぱすごい。正直、ちょっとかっこよかった。

8回裏には、近本のゲッツーで球場が静まり返った。
まるで、空気の抜けた風船みたいやった。
風船はないのに、萎んだ音だけがはっきり聞こえた気がした。

9回表、マウンドには桐敷。
先週、しんどい登板が続いてたのを覚えてたから、少し不安になった。
けど、内野の守備にも助けられて、三者凡退。テンポよく抑えきった。

「よかったあ。心配やったもん、桐敷くん」

「うん、気持ち切り替えたんやろ。なかったことにしたったらええねん、失点なんか」

そして9回裏、クリーンナップの3番森下からの打順で始まったけど、あっという間に終わった。
7連敗。

「なあ、久しぶりにお好み行きたいわうち、福岡やとあんまり行かれへんし」

夏美がそう言って笑ったあと、わたしも応える。

「せやな。それで今日も、なかったことにしたったらええねん」

ほんま、しんどい試合やったけど、こうして笑ってる自分らがおって、なんか腹立つな。

夏美は、空になったビールのカップをくるりとまわした。
表面のロゴが、照明でぼんやりと光っていた。


帰り支度をしながら、手元で丸めた応援用のミニタオルを指でなぞり、夏美がぼそっと言った。

「なんか今日、やっと“間違ってたな”って思えた気がしてん」

「何が?」

「南野のこと。あのとき、ちゃんと声かけたらよかったって……今日、試合見てて、なんか急にそう思ってしもてん」夏美が続ける。

「けど、結局“なかったことにできない”んやろな、あれは。」

わたしは言葉を挟まず、そのまま横に座り直した。

球場では角中のヒーローインタビューが続いている。

「来年また帰ってくる?」

「帰る。そのときは、もっと声出して応援しよ」

「うん。空まで届くくらい」

―甲子園のざわめきが、少し遠くなっていた。


本日のスコア
阪神1-3ロッテ 阪神甲子園球場

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