【ハードオフ新潟】阪神タイガース1-1DeNA|高寺が同点弾、延長ドローに持ち込む

阪神タイガース観戦記

25歳の営業職、大崎慎吾は、新潟に暮らしながら阪神タイガースを応援している。 13年ぶりに“地元に来る”タイガースを、どこか迷いを抱えながら見つめていた——。

赤い月の下で〜阪神タイガース観戦記2025年5月13日

阪神タイガースが、新潟で試合をするのは13年ぶりだった。

それを知ったとき、阪神ファンの自分としては、なんともいえない高揚感が湧いた。

街のポスターに並んだ「横浜DeNA主催試合」の下に記された『対 阪神タイガース』の文字。 その文字ひとつで、この5月が待ち遠しくてならなった。

自分が生まれ、暮らしてきたこの街に、プロ野球がやってくる。それも、阪神タイガースが。

DeNA側のチケットを買った同僚たちは「ユニフォームも買ったし」と盛り上がっていた。三塁側へは自分一人で向かう。 球場の周辺には、子どもの手を引いた親たちや、レプリカユニフォームを着た学生たちの姿であふれていた。みんなこの一大イベントに期待してるのだ。

曇り空の下、どこか遠足の前の晩のようなワクワク感が漂っていた。

けれど、そんな熱気の中でも、自分の心はどこか遠くに置いてきたままだった。 あの高揚感は、日々の疲れや迷いの中で、少しずつ薄れていたのかもしれない。

会社では、うまくいかない日が続いていた。提案書に何度も赤を入れられ、数字も思うように伸びなかった。 チーム内での役割も曖昧で、自分だけが空回りしているような感覚にとらわれていた。 営業会議で飛び交う言葉が、どれも自分とは関係ない場所で発されているように感じていた。 「このままの働き方で、本当にいいんだろうか」 そんな言葉が、最近の自分の口ぐせになっていた。

そんな憂鬱な気持ちを抱いたまま、試合が始まった。

外野席はブルーに染まっていた。今日は横浜の主催試合だ。 一塁側がホーム扱い。三塁側の阪神ファンは、それでも声を張り上げていた。アウェイとは思えないほどの熱量で、はやくもスタンドを揺らしている。

阪神もDeNAも、初回にまったく同じようにチャンスを潰した。 1アウト1・2塁からのゲッツー。まるで合わせ鏡のようだった。

そこから試合は、両チーム譲らぬ投手戦になった。

3回裏、先頭のDeNA林が左中間を破るツーベースで出塁。ピッチャーのケイが簡単に送り、一死三塁。
続く桑原が四球で出塁し、一・三塁のチャンスを作ったが、
2番・牧のライトフライで三塁ランナーはスタートしない。

微妙な位置とはいえ、森下の肩を警戒して、三塁ランナーは動けなかった。その判断に、球場全体がわずかにざわついた。 あの静かなどよめきは、何かが少しずつ動き出す前触れのようだった。

5回裏、林のファウルフライを中川が必死に追った。 飛び込んだグラブには届かなかったけれど、その姿勢に三塁側スタンドから拍手が送られた。

その数分後、また同じような打球が飛んだ。 中川は再び打球を追った。 今度は、追いついて打球の下に入り、最後まで目を離さずに、、、捕った。
前の打球にあと一歩だった中川が、目の前でひとつの答えを出してみせた。そのプレーが、たまらなく誇らしく思えた。

さっきよりも大きな拍手が自然と湧き上がった。歓声というより、確かな評価のような音だった。

7回表、阪神は佐藤と大山の出塁でチャンスを作る。高寺がまたも送りバントを成功させ、1アウト満塁。 だが、ここでも得点にはつながらなかった。
「ゲームの流れ」というのはすぐに変わる。その裏、DeNAが犠牲フライで先制する。 試合の均衡がついに破られた直後、球場の空気がわずかに傾いた。

9回表。

2アウト、ランナーなし。 DeNA守護神・入江のまっすぐが阪神主軸の佐藤輝、大山をねじ伏せたあとの打席だった。

高寺。今日が今シーズンの初スタメン。 2つのバントをきっちり決めたその背番号67が、初球を見送り、2球目にバットを振り抜いた。

打球は、驚くほど綺麗な弾道で、ライトスタンドへ吸い込まれていった。

自分の席の斜め前で、誰かが立ち上がった。その隣でも、誰かが立ち上がった。 気づけば、自分も立ち上がっていた。

思わず声が出た。叫んだわけじゃないのに、気づけば息が漏れていた。「すごい」と、自分でも驚くほど素直に言葉が出ていた。

誰の代役でもなく、期待に応えることだけに縛られず、 “任された立場”に、自分のやり方で応えた一打だった。

そして試合は延長に入った。

10時を過ぎ、鳴り物は止まり、それでも声援は続いていた。

湯浅が最後の打者をセカンドライナーに打ち取って試合終了。

引き分け。

でも、負けた気はまったくしなかった。

高寺の一打、中川の守備。 チャンスを託された選手が、その場にふさわしい答えを出した瞬間に立ち会えたこと。 不安や重圧があっても、そこから逃げずに踏みとどまることで、きっと、何かを変えるんだ。 そう思わせてくれるプレーだった。

自分の中で、その余韻はしばらく消えなかった。

居場所は、もらうものじゃない。 自分でつくるものだ。

開放感のある地元のスタジアムの空に、赤くて大きな満月がかかっていた。 まるで、誰かの姿を静かに見守っていたような月だった。

高寺も、中川も、そしてたぶん、弱音ばかり吐いていた自分のことも。

球場の外にでた。アスファルトの上にも赤い月の光は静かに落ちている。
今日あのスタジアムで見たすべてのことが、 その光と一緒に、自分の背中をそっと押してくれているような気がした。

【本日のスコア 横浜DeNA1ー1阪神 @ハードオフ新潟】


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