【バンテリンドーム】伊藤2被弾で中日に敗戦 中川森下ソロも逆転負け 阪神2−5中日 (2025年9月3日)

対中日ドラゴンズ

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毎回異なる人物の視点から、勝敗にとらわれず心の揺れや日常の断面を言葉にしています。 “試合を知らなくても読める”、そんなブログです。

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試合概要・あらすじ

2025年9月3日、バンテリンドームで行われた阪神vs中日戦は、中日が5-2で勝利した。阪神は中川のホームランで先制し、森下のソロホームランで追い上げを見せたが、伊藤将司が5回に細川の3ランなど4失点を喫し、逆転負けを喫した。


名古屋の食品メーカーに勤める橋本豊(24歳)が、杉本課長(48歳)と3度目の観戦。この半年で縮まった二人の距離感の中で、課長の一喜一憂を見守る豊の心境を描く。負けた試合の帰り道、課長から意外な提案が飛び出す。

杉本課長の沈黙〈Season3〉〜阪神タイガース観戦記2025年9月3日〜

会社での課長、そして大矢部長

すっかり杉本課長との距離が縮まった僕。

この半年で、まさか課長と3回も観戦に行くことになるとは思ってもいなかった。

ただ、会社での課長は相変わらずだ。

残業の少ない職場だが、たまにある会議が夜7時を回ると、課長はソワソワし始める。携帯が鳴ってもいないのに耳に当てて席を立つ。恐ろしい形相で戻ってきたり、逆に満面の笑みで帰ってきたり。要は阪神の途中経過を確認しているのだ。勝てば笑顔、負ければ般若顔。これが会議時の杉本課長のルーティン。

同僚たちは見て見ぬふりをしている。会議室の空気がピリッと張り詰める中、課長が「ちょっと失礼」と言って席を立つたび、企画部の女性陣は苦笑いを浮かべ、営業の先輩たちは書類に視線を落とす。

だが一人だけ、毎回苦々しい表情を浮かべる人物がいる。大矢部長だ。課長が会議室を出入りするたびに、その顔がさらに渋くなる。眉間の皺が深くなり、ボールペンをカチカチと鳴らす音が会議室に響く。最近では、その視線が僕にも向けられている気がしてならない。「お前も同じ穴のムジナか」と言わんばかりに。

試合に勝った翌日の課長はまた極端だ。女性社員にまで「おはよう!」と声をかけ、オフィスの空気を妙に明るくする。だが負けた翌日は決まって僕のデスクへ直行し、

「継投がいかんかった」
「代打は糸原でよかった」

と野球談義を浴びせてくる。僕もつい「継投は結果論ですよ」とか「いや、あそこは右の豊田でしょう」と応じてしまう。その会話もまた、大矢部長には苦々しく映っているらしい。

浮かれる課長とチケット自慢

そんな課長が、今回はやけに浮かれていた。
優勝マジックがついに一桁となり、もう落ち着いていられないのだろう。

先週の昼休み、課長はわざわざ僕の席まで来て言った。

「橋本ぉぉ、チケット取ったぞ!2枚!」

「へー、いいですね」と軽く返すと、

「は・し・も・とー。君の分だがね」

日に焼けた顔をくしゃっとさせ、胸を張る課長。

……いや、それ僕に拒否権ないやつですよね。

こうして、3度目の観戦が決まった。

バンテリンドームへ

名古屋の街は、中日ファンの青いユニフォームであふれていた。
ただ、その中に混じるように黄色い阪神ユニフォームも目につく。優勝マジックが一桁になった影響だろう。栄の地下街を歩いていても、あちこちから関西弁が聞こえてきて、ここが本当に名古屋なのか不思議な気分になる。

地下鉄でドーム前矢田駅へ向かう車内は、青と黄色が入り混じり、試合前特有のざわめきに包まれていた。家族連れの中日ファンが静かにプログラムを読んでいる横で、阪神ファンのグループが笑い声を上げる。その対比がなんとも面白い。

バンテリンドーム前では物販ブースに長い列ができ、もつ煮込みの匂いが漂い、応援メガホンを買い求める声が飛び交う。

今日のカードは阪神・伊藤将司と中日・大野雄大の左腕対決。
3塁側に腰を下ろすと、敵地のはずなのに黄色の多さに圧倒された。むしろ甲子園に近い安心感があって、思わず笑みがこぼれる。

課長はその熱気に酔うように、レモンサワーをグイッと流し込んだ。

「こりゃ今日も熊谷スタメンあるで!」

昨日プロ初ホームランを放った熊谷の名前を、まるでお経のように繰り返している。

「じゃあレフトは誰ですかねえ」と僕が水を向けると、

「そんなもん小野寺に決まっとるがね!」と一喝された。

17時を回り、スタメンが発表される。ショートは熊谷。レフトは中川。
そして──小野寺はセンター。

一瞬、課長の肩がピクッと震えた。

「……ほう。そうきたか」妙に含みのある声。

(どうきたんだよっ)と心の中で突っ込みながら、僕は「近本は休養ですかね。小野寺のセンター、楽しみですね」とフォローを入れる。

その気遣いが逆に居心地悪かったのか、課長はレモンサワーを一気に飲み干し、
「橋本、なんかつまもうか」と言って席を立った。

試合という名の課長観察記

ドーム内の冷房と熱気がぶつかり合う不思議な空間で、照明の白い光がフィールドを照らしている。キャッチボールの乾いた音とビールの売り子の声が混じって、野球場独特の雰囲気を作り上げていた。

2回表、ドラゴンズ先発の大野はテンポ良くアウトを重ね、この回も3者凡退で打ち取る。センター抜擢された小野寺が三振に倒れたときなどは、隣で「グムウ」という呻き声が聞こえた。

「あかんて、もっと思い切っていかんと」

杉本課長は歯痒そうな表情を見せるが、思い切って振った結果の空振り三振だった。

(思い切った結果が三振なんですが)

3回表、打席には中川。そういえば前回の観戦では中川のホームランがあったなあ。そんなことを考えながら見ていたら、大野の2球目がバットに当たった瞬間、球場に乾いた音が響く。打球はぐんぐん上がってレフトスタンドへ消えていった。

湧き上がるレフトスタンドの歓声から半歩遅れて、杉本課長が騒ぎ出す。

「ほらみろ!中川打ったわ」

その表情は満足そうだが、何が「ほらみろ」なのか。中川がホームラン打つなんて誰でも期待してるじゃないか。

それでも中川のソロ弾で阪神が先制。阪神1-0中日。課長と一緒にガッツポーズをしている自分がいた。

5回表、阪神は1アウト後、8番坂本が右中間にツーベース。続くピッチャー伊藤もレフト前にポトリと落とし、1アウト1・3塁のチャンス。打席には今日1番に入った中野。

「これは1点入ったな」

課長がふふんと鼻を鳴らしご満悦だが、ここで相手のベテラン左腕大野がギアを上げる。中野には外角の変化球で空振り三振、続く熊谷にも内角直球で見逃し三振。立て続けに2つの三振で、阪神の1・2番があっさり料理される。

手のひらからこぼれ落ちたチャンス。杉本課長は歯軋りしながら僕を睨みつける。

(なんで僕が睨まれるんですか)

心の中で呟きながら、「大野もさすがですね」と当たり障りのないコメントをしておく。

5回裏、ここまで毎回ランナーを出しながらも粘っていた伊藤だったが、2アウト1・2塁の場面で上林にセンター前を破られる。続く細川の打席、インコースに投じた直球がバットの芯を捉えられ、打球は一直線にライトスタンドへ飛び込んだ。

あっという間に4点を失い、一気に逆転。阪神1-4中日。

課長はレモンサワーの入ったカップを握ったまま俯いている。

「課長?」

もう一度問いかけると「……何も言うな」と絞り出すような声が返ってきた。

(課長の沈黙は、酒が切れたときと同じくらい重たい)

そう思うと、なぜかクスッと笑いそうになる。

6回表、意気消沈の課長とは裏腹に、この回マウンドに上がった大野は心なしか表情が明るい。先頭の森下に3ボールまで投げ込むが、甘く入った4球目を森下がレフトスタンドへ放り込む。

球場に響く打球音と、3塁側スタンドの歓声。阪神2-4中日。

「よし。まだいける」

課長が小さく呟く。まだ諦めていない。

(課長の”まだいける”はどうも信用できない)

でも6回裏、今日中日の1軍に合流した石川が、これまた見事にレフトスタンドへ放り込む。

課長は今度はスコアボードをうらめしそうに見つめるだけだった。阪神2-5中日。

7回裏、阪神は2番手で畠がマウンドに上がる。現役ドラフトで阪神加入後、今シーズン初登板だ。上位打線相手に淡々と投げ切り3者凡退。

「初めてじゃないですか」僕が問いかけると「何が」と課長。

「三者凡退ですよ」

「……そうやな」

短い返事だが、少しだけ表情が和らいだ。

9回表、中日の抑え松山が登板。高寺・中野が四球で出塁し、これで最後のチャンス。でも熊谷がゲッツーで倒れゲームセット。

「あかんかったか……」

課長は大きく息を吸って立ち上がった。

「まあこの敗戦の悔しさだけは、何回味わっても慣れへんわ」

苦笑いを浮かべ歩き出す。でも足取りはもう、いつもの課長に戻っていた。

空回りすらも、一緒に楽しめる距離

課長と出会った頃は、正直「しんどい観戦」だと思っていた。
誰でも知っている情報を“自分だけの発見”のように語り、断言し、外れても言い訳する。
それを真横で延々聞かされるのは、なかなかの試練だった。

でも、半年経った今は違う。課長の空回りすらも、笑えるようになった。
スタメン予想が外れたときの動揺。勝手に“俺ルール”で選手を評価する癖。
チャンスを逃したときに僕を睨む理不尽さ。
全部ひっくるめて「課長らしい」と思えるようになった。

阪神が勝っても負けても、課長は課長であり続ける。
むしろ、そのブレなさが可笑しくて、愛おしい。
僕自身、気づけばそれを“楽しんでいる”のだ。

予想外の提案

試合が終わり、駅へ向かう人波に紛れる。負けた試合のはずなのに、なぜか足取りは軽い。課長の一喜一憂を見ているだけで、十分に楽しめた。

地下鉄の階段を下りながら、課長がポツリと言った。

「橋本、優勝の瞬間は一緒に見るぞ」

負けたばかりなのに、余裕を含んだ声。
球場でか、それとも会社のテレビでか──。頭に浮かんだ選択肢の先で、思わず口をついて出た。

「課長の家でですか?」

その瞬間、課長の足が止まった。振り返ると、少し驚いたような顔をしている。


だが次の瞬間には、「待ってました」と言わんばかりにニヤリと笑った。

「……おう、橋本。座敷でな」

(ついに家に呼ばれる日が来るとは)

改札前で振り返ると、課長はもうスマホを見つめていた。

──杉本課長の家の座敷が甲子園並みに騒がしくなる未来は、すぐそこまで迫っている。

 

本日の試合結果

スコアボード

  1 2 3 4 5 6 7 8 9
阪神 0 0 1 0 0 1 0 0 0 2 8 0
中日 0 0 0 0 4 1 0 0 X 5 10 0

 

責任投手

  • 勝利投手:[ 中日 ] 大野雄大 (9勝4敗0S)
  • 敗戦投手:[ 阪神 ] 伊藤将司 (4勝1敗0S)
  • セーブ:[ 中日 ] 松山晋也 (0勝0敗38S)

📌 観戦メモ(持ち込みルール&持ち物)
・球場ごとに飲料容器や容量の規定が異なります。来場前に最新の公式案内をご確認ください。
・傘が使えない席が多いため、雨天時はレインポンチョ推奨。
・暑さ/寒さ対策と両手が空く軽装が快適さの近道です。

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