【東京ドーム】阪神痛恨の逆転負け 最大4点リード守れず 阪神5−6巨人(2025年8月15日)

対読売ジャイアンツ

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TIGERS STORY BLOGは、阪神タイガースの試合を“物語”として描く観戦記ブログです。

毎回異なる人物の視点から、勝敗にとらわれず心の揺れや日常の断面を言葉にしています。 “試合を知らなくても読める”、そんなブログです。

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 試合概要・あらすじ

この日の阪神は、4回表に大山の7号2ランで先制し、一時は4-0とリードを奪った。しかし6回裏から代打攻勢を受け、坂本と中山の代打ホームランで一気に追い上げられ、8回裏に逆転を許す痛恨の敗戦となった。
中野在住の出版社営業・荒木剛と愛知在住の自動車部品メーカー勤務・前田健吾。小中学校の同級生で少年野球仲間だった二人が、15年ぶりに東京ドームで再会。SNSで偶然つながった縁から実現した観戦で、過去と現在が重なり合う夏の一日を描く。変わったものと変わらないもの、失ったものと新しく見つけたものを通して、友情の新たな形を発見する物語。

蝉時雨の向こうにいた 〜阪神タイガース観戦記2025年8月15日〜

十五年ぶりの再会

東京ドームの外周を歩くたび、足元のアスファルトからむっとした熱気が立ち上がった。昨日までのぐずついた空が嘘のように、今日は雲間から時おり陽射しが差し込み、湿気をたっぷり含んだ空気が肌にまとわりつく。シャツの背中が早くも汗ばんで、首筋を流れる汗を手の甲で拭った。

人波は一方向へ流れ、手には透明なカップのビールやソフトドリンク。球場の警備員が「缶類の持ち込みはご遠慮ください」とアナウンスを繰り返している。

その声に混じって、子どもたちの「タイガース頑張れ」という歓声や、ファン同士の「今日は勝てそうやな」という会話が聞こえてくる。

中央線に乗って、中野からやって来た荒木剛は、胸ポケットのチケットを指でなぞった。
紙の手触りがしっとりと湿っている。

苦労の末、やっと確保した三塁側の指定席だった。

SNSで偶然つながった前田健吾と、十五年ぶりに肩を並べる日だ。

少年野球のチームメイトだった二人は、中学卒業と同時に健吾の家族が愛知に引っ越し、そのまま疎遠になった。健吾は愛知の工業高校へ、自分は都内の進学校へ。

それっきり、年賀状のやり取りすらなくなった。

きっかけは三か月前、目立ちたがり屋だった同級生の加藤が結婚するという連絡だった。

加藤が作ったLINEグループに、懐かしい名前がずらりと並んでいる。

その中に「前田健吾」の文字を見つけたとき、心臓が少し早く打った。
恐る恐るプロフィールを覗くと、見覚えのある輪郭。少し大人になったけれど、間違いなく健吾だった。

メッセージを送るかどうか二日も迷って、結局「お疲れさまです、荒木です」という当たり障りのない挨拶から始まった。返事が来たときは、仕事中だったのに思わずにやけてしまった。

再会の舞台が東京ドームというのも、不思議な縁だった。

人混みの中を見回していると、改札近くで手を振る男性の姿が目に入った。健吾だ。

胸の奥で何かがどくんと跳ねる。昔より背が伸び、肩幅も広がっている。スーツ姿で、手には黒いボストンバッグ。

それでも笑ったときの目尻は、夏のグラウンドにいたあの頃と変わらないように見えた。向こうも気づいて、人波をかき分けるように歩いてくる。

距離が縮まるにつれて、十五年という時間が嘘のように感じられた。

「おお、剛!本当に来てくれたんだな」
「健吾、久しぶり。変わらないな」

握手を交わすと、健吾の手のひらがしっとりと湿っていた。自分の手も同じだろう。二人とも少し照れくさそうに笑ったが、その笑顔の奥に、懐かしさと嬉しさが混じっているのが分かった。

夏の記憶と現在

「マジック、M26だってな。ここで一気に引き離せたら…」健吾が額の汗を拭いながら笑う。

「そうそう、今日勝てば流れが一気に来そうだよな」剛はペットボトルのお茶を自動販売機で購入する。

「伊藤から村上、才木ってローテ、贅沢だよな。うちの会社にも野球好きがいて、よく話すんだ」健吾がカップのアイスコーヒーを手に取りながら続ける。

「藤川監督、若手もちゃんと使うし。今年はいろんな選手が見れて面白い」剛もペットボトルを片手に応える。

二人は球場の外壁に沿って歩きながら話を続けた。周りには同じように談笑する阪神ファンたちの姿があちこちに見える。親子連れ、カップル、同僚同士らしいサラリーマンのグループ。みんな今日の試合を楽しみにしている表情だった。

「けど、ペナントって…何かあるもんだよ」健吾が振り返るように言う。

「そうそう、最後まで分からないからな。21年だって最終的に…」

そう。何が起こるかわからないのがプロ野球だ。特に何か起こるとネタにされるのがタイガースだし。

「そういえば、中田翔、引退だってよ。三十六歳だろ?俺らから見たら若いのに」

「もう三十六か。俺らも三十二だもんな」

立ち話の合間に、夏の匂いが滑り込んできた。灼けた校庭の土の匂い、白球を受ける乾いた音、駄菓子屋で食べたアイスの甘ったるさ。コンクリートに反射する熱気の中で、ふとあの頃の記憶が蘇る。夕立前の空気はむっとして、セミの鳴き声が耳を包み込んだ。

ーー蝉が一斉に鳴き出した、あの夏だった。

小六の夏休み、練習後に二人でベンチに腰掛け、麦茶を飲み干したときの空の色まで思い出す。プールの塩素の匂いと、グラウンドの砂埃。監督の大きな声と、母親たちの「お疲れさま」という声。あの頃は時間がゆっくり流れていて、夏休みは永遠に続くような気がしていた。

現実に戻れば、目の前の健吾はスーツ姿で、手には仕事用の鞄。昔のユニフォーム姿は、もう想像の中でしか見られない。だけど、その距離感さえも、今は悪くない気がした。

「そろそろ入ろうか」健吾が腕時計を見る。
「そうだな。開門してるよ」

過去と現在の重なり

球場のゲートをくぐると、人工芝の匂いとアナウンスの声が一気に押し寄せてきた。「本日は阪神タイガース対読売ジャイアンツ戦にお越しいただき…」スピーカーから流れる定型文も、今日は特別に聞こえる。

周囲の阪神ファンのざわめきに混じって、二人の会話も少しずつ試合モードに変わる。

「今日勝ったら、本当に流れ来るぞ」
「いや、油断はできん。相手だって必死だから」
「そうそう、甘く見ちゃダメだ」

そんな言葉を交わしながら、階段を上って指定席のある3階へ向かう。足音が響く階段で、下から見上げると、同じように席を探すファンたちの姿が段々に連なって見えた。

前を歩く健吾の背中は、少年時代よりずっと大きく、重そうにも見えた。

ボストンバッグを肩にかけた姿からは、大人としての重みが感じられる。

十五年という時間が作ったのは、見た目の変化だけじゃない。お互いに積み上げた日々や責任、そして少しの疲れ。

健吾は自動車部品メーカーで営業をしているらしく、今回はお盆休みを利用して東京に出てきたという。自分も出版社で営業として走り回る毎日。

 

あの頃のようにただ野球だけを考えていればよかった時代は、もう遠い。

それでも、健吾は確かにここにいる。十五年という時間が作った距離も、今は縮まりつつある。お互いに積み上げた責任や疲れがあっても、同じチームを応援する気持ちは変わらない。

ユニフォーム姿はもう見られないけれど、隣にいる今が心地よかった

席に着くと、フィールドが一望できた。まだ選手たちは準備中で、グラウンドでは球場スタッフが最終チェックをしている。三塁側から見る東京ドームは、思っていたより迫力があった。

「いい席取れたな」健吾が座りながら言う。
「苦労の末だったからな」
「俺も地元でたまに見に行くけど、東京ドームは今シーズン初めてだ」
「俺は二回目。前回は一人で来たんだ」

席に着いて見回すと、フィールドが一望できた。まだ選手たちは準備中で、グラウンドでは球場スタッフが最終チェックをしている。三塁側から見る東京ドームは、思っていたより迫力があった。あの頃のままではいられない。でも、あの頃を失ったわけでもない。そんなことを考えていると、場内アナウンスが両チームの選手紹介を始めた。

試合開始の直前、健吾がふとこちらを振り返り、口元で笑った。

「今日はありがとな、剛」
「こちらこそ。久しぶりに野球見るのが楽しみだよ」

その瞬間、過去と現在が少しだけ重なった気がした。

十五年前の夏の終わり、最後の試合のあとで交わした「また一緒に野球やろうな」という約束。

結局それは果たされなかったけれど、こうして同じチームを応援している今も、悪くないのかもしれない。

代打攻勢の逆転劇

試合は伊藤の好投で始まった。左腕エースが一軍復帰後に見せる安定した投球。立ち上がりを三人で片付ける上々のスタートに、二人とも安堵の表情を浮かべた。

「また今日も、投手戦かなあ。山崎攻略できるかなあ」健吾がマウンドを見つめながら呟く。

「うん。ドームだし、ホームラン怖いしね」答えながらも剛は思う。やっぱり巨人の投手陣も充実していて、相手にはしたくない。

3回まで、阪神は得点圏にランナーを進めながらも山崎に阻まれ続けた。一方の伊藤は門脇のヒット一本に抑え、淡々とアウトを重ねる。

「いい流れのうちに点取っときたいよな」

4回表、先頭の四番佐藤が四球で出塁。塁上の背番号8を見ながら思う。今年の佐藤は本当にすごい。すごすぎて、四球やヒットでは満足しなくなってるんだから阪神ファンとは難儀なものだ。

そんなことを考えながら見ていた五番大山の打席。二球目を振り抜いた瞬間、打球は高く舞い上がり、虎党の待つレフトスタンドへ。

剛と健吾は思わず肩を組んで、はしゃぎ、六甲おろしを口ずさんだ。懐かしさと、まだほんの少しの照れ臭さも抱えて。

「夏の大山、健在だね」
「ああ、本当に残留してくれてよかったよ」

さらにこの回、二アウト二・三塁から近本の技ありのヒットがレフト前へ。
浅い当たりだったがセカンドランナー小幡は三塁を回り、ホームへ突入。

まるで低空飛行のロケットのような切れ味鋭いヘッドスライディングで追加点。4-0。

6回裏、二アウト一・三塁のピンチで巨人に代打坂本が告げられる。

「うわあ、ここ大事だよなあ」

今シーズンの坂本は苦しんでいる。けど他チームから見てやっぱり怖いのが坂本だ。俺たちの世代からしたらホームランを打ってるイメージが強すぎる。

粘った六球目、弾き返された打球はレフトスタンドへ。一気に息を吹き返したのは東京ドームだった。そんな盛り上がりの只中にいながら、まるで逆転されたような言いようのないプレッシャーに剛は押しつぶされそうになった。

7回裏、即座に一点を取り返して少しホッとしたのも束の間。

新助っ人ハートウィグが代打中山に痛恨の同点ホームラン。

「全部代打にホームラン打たれてるなあ。巨人の代打成功率すごいよこれ」

健吾が口にするが、内心穏やかではないはずだ。まさかこんな試合展開になるとは。

8回裏、湯浅のマウンドから先頭の丸、続く坂本にも技ありのヒットを許し、一アウト二・三塁からキャベッジの犠牲フライで、ついに最大四点差を逆転される。

大きな落胆とため息に包まれた三塁側のスタンドで、剛も思わず東京ドームの無機質な天井を見上げた。

「ライデルか」健吾が隣で呟く。

全くだ。そうそう打てないぞ、あんなピッチャー。

9回表、巨人の守護神ライデル・マルティネスがドームのマウンドにそびえ立つ。

二番中野からの好打順もお構いなしに、圧巻の三者連続三振。序盤の楽勝ムードが引き裂かれたような、悪夢のような逆転負けだった。

「こないだも巨人に五点ひっくり返されたよな」健吾が真剣な顔をして言う。

「こういうことが平気で起こるんだよなあ、巨人戦って。 ーーとりあえず、近場で一杯行くか」

そう返すと、健吾もニッと大きくうなずいた。

新しい約束

東京ドーム周辺の居酒屋は、同じように試合を見終えた人たちで賑わっていた。

阪神ファンは悔しそうに、巨人ファンは満足そうにビールを飲んでいる。

剛と健吾は何気なく入った焼き鳥屋の奥の席に座り、とりあえずの乾杯を済ませた。

「いやあ、まさかあんな展開になるとは」健吾がビールを一口飲んで苦笑いする。
「代打にやられるパターン、今年多いよな」
「でも4回の大山のホームランのときは盛り上がったなあ。久しぶりに肩組んじゃったよ」

そう言いながら、健吾は少し恥ずかしそうに笑った。剛も同じ気持ちだった。

あの瞬間、十五年という時間が一気に縮まったような感覚があった。

「そういえば、昔もよく負けた後にこうやって…」剛が言いかけて止まる。

昔は試合の後、駄菓子屋でジュースを飲んだり、公園のベンチで愚痴を言い合ったりしていた。

今は居酒屋でビールだけれど、やっていることは本質的に同じなのかもしれない。

「覚えてる?最後の試合の後、お前が『また一緒に野球やろうな』って言ったこと」

健吾が急に真剣な表情になる。

剛は驚いた。自分が覚えていた言葉を、健吾も覚えていたのだ。

「覚えてるよ。でも結局、やらなかったな」
「高校が違うし、進路も違ったし。でも今日、こうしてまた一緒に野球見てるじゃん」

健吾の言葉に、剛は何かが胸の奥で溶けていくのを感じた。「また一緒に野球やろう」という約束は確かに果たされなかった。でも、「また一緒に野球を見よう」という新しい約束なら、今から始められるかもしれない。

「来年の夏は甲子園に行こうか」剛が提案すると、健吾の顔がぱっと明るくなった。
「いいな、それ。チケット取れるかな?」
「二人で頑張って取ろう。今度は勝ち試合を見たいしな」

外では夜の蝉が鳴いている。

昼間ほど激しくはないが、確かに夏の声だった。

十五年前の蝉時雨も、今夜の蝉の声も、きっと同じ夏を歌っている。
変わったものと変わらないもの。失ったものと新しく見つけたもの。

あの蝉時雨の向こうにいた健吾は、今も確かにここにいた。

 

本日の試合結果

スコアボード

  1 2 3 4 5 6 7 8 9
阪神 0 0 0 4 0 0 1 0 0 5 7 0
巨人 0 0 0 0 0 3 2 1 X 6 8 0

 

 責任投手

勝利投手:[ 巨人 ] 大勢 (7勝4敗1S)
敗戦投手:[ 阪神 ] 湯浅 (3勝4敗0S)
セーブ:[ 巨人 ] マルティネス (3勝2敗34S)

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