【横浜スタジアム】DeNAとの最終戦は延長12回引き分け 二度追いつくも勝ち越せず 阪神2-2DeNA(2025年9月23日)

対DeNAベイスターズ

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試合概要・あらすじ

秋分の日の火曜日、横浜スタジアムで行われた阪神対DeNAの一戦は、延長12回2-2の引き分けに終わった。阪神ネルソン、DeNAケイの助っ人対決は投手戦となり、阪神は前川のタイムリーと大山のホームランで二度追いつくも、決勝点を奪えずDeNAとのシーズン最終カードを白星で飾ることはできなかった。

東京・幡ヶ谷で小さな本屋を営む64歳の須原拓司が、同じ商店街の魚屋を営む八田大吾と横浜スタジアムへ。「紙にこだわる自分は古いのか?」という問いを抱えながら、4時間を超える延長戦を通して、続けることの意味を見つめ直していく物語。

半券の行方〜阪神タイガース観戦記2025年9月23日〜

研究という名の野球観戦

秋分の日の火曜日。幡ヶ谷の自宅住居1階で営む本屋のシャッターを上げながら、須原拓司は妻の陽子の視線を背中に感じていた。

「ちょっとあなた、また阪神の”研究”でしょ?どうせ九回裏まで帰ってこないんだから」

聞こえないふりをして玄関へ回る。振り返れば、陽子が腕組みをして立っているのが見えた。老眼鏡を額に上げ、少し腰を伸ばしながら軽く咳払い。

阪神の研究、昨日、確かにそう言った。間違いではない。

そそくさと家を出て、甲州街道を歩きながら、須原は胸ポケットに入れた観戦チケットを人差し指で確かめた。小さく折りたたんだ紙の端が、わずかに立っている。それを指先でなぞると、気持ちが落ち着く。

昨日もアルバイトの大学生に「須原さん、QRコード決済の方が早いですよ」と言われたが、やはり紙の手触りの方が安心する。店でもQRコード決済を勧められるたび、自分が頑固なのか、それとも大切なものを守っているのか分からなくなる。まあ、陽子に言わせれば「ただの機械音痴」らしいが。

駅前で待っていた八田大吾は、白いTシャツに黄色いキャップ姿だった。同じ商店街で魚屋を営む同級生。握手すると、氷と包丁で荒れた手のひらがごつごつと硬い。

「よう」
「おう。今朝の生簀の鯛、やたら目が澄んでてな」
「で?」
「いや、まだ俺も澄んだ瞳でいたいってことだ」
「魚と張り合うなよ」

改札をくぐる時、須原は定期券をもたつかせた。その横を八田がスマホをかざして先に通り抜ける。

「便利になったもんだ」
「…まあな」

ハマスタへの道のり

新宿で乗り換え、横浜を目指す。休日の電車は座席に余裕があり、二人並んで座った。

「しかし、朝から言われたよ」八田が口を開く。
「奥さんに?」
「『毎日お疲れさまです。でも今度は私もお疲れさまって言ってもらいたいな』だって」
「うちの陽子は『いいご身分ね』って」
「きついな」
「でも『気をつけて行ってらっしゃい』も付け加えてくれるんだよ」
「優しいじゃないか。うちは『お土産忘れないでよ』で締められる」

二人は顔を見合わせて照れくさそうに笑みをこぼした。

話題は今日の先発、ケイのことになる。

「また苦戦するかな」
「マウンドに立ってみないと、今日の調子は分からないからな」
「ただ阪神もケイを打てなさすぎだよ」

関内駅は球場へ向かう人たちで溢れていた。デイゲーム自体が久々で、快晴とは言えないまでも秋の祝日を楽しもうと、青と黄色のユニフォームがひっきりなしに往来を交差する。

八田が空を見上げる。「久しぶりのデイゲームだな」
「天気も持ちそうでよかったよ」須原も雲の様子を確かめた。

三塁側ベンチ寄りの外野席で座席を確認し、腰を下ろす。須原は入り口で受け取ったプログラムの、まず紙質を確かめた。指にひやりと吸いつく感触。今日は上質な紙を使っている。小さな文字を読むために、また老眼鏡をかけ直した。

「紙フェチか?」八田が茶化す。
「…違う」
「でも嬉しそうだぞ」

須原は苦笑いして、プログラムを丁寧にたたんだ。

「今日は小言いう奥さんもいない。のんびり行こう」

八田は威勢よく売り子さんを捕まえ、ビールを注文する。

「俺も」

須原が財布を取り出すと、八田が笑った。

「これからは魚屋も八百屋もキャッシュレスだぜ、須原」

これまで飲みに行っても1円単位で一緒に割り勘してた八田の進化に、須原は少し焦りを感じた。本屋でももちろん電子決済は導入済みだが、現金のやりとりが一番安心する。

お札を数える手がかさついている。もたつきながら財布をまさぐっていると、八田がスマホを掲げて電子決済で二人分を支払った。

「すまん」

須原は気恥ずかしそうに現金を八田に押し付けた。

スタメンが発表される。

「須原!3番に前川がいるぞ」八田が興奮して声を上げる。
「わかってるよ。ちょっと期待しちゃうよな」
須原も大きくうなづいた。


延長十二回の熱戦

1回表の第一打席で、前川はセカンドへの内野安打で出塁した。相手はケイだ。しかし4番佐藤が三振に倒れ、初回のチャンスは潰える。

阪神の先発は助っ人右腕のネルソン。それでも2回裏、DeNAの大砲筒香にレフトスタンドへ1発を浴び、先制点を許す。

阪神0-1DeNA

「なんだよ筒香。完全に復活してんじゃん」

メジャー帰りの大砲の1発には参ったが、ハマスタのデイゲームの開放感とそこで飲むビールの美味さが、それを忘れさせてくれた。

ランナーは出るものの、気持ちのこもったケイの投球に阪神打線は沈黙する。チャンスを広げても、肝心なところであと1本が出ない。

「出塁はするのに、最後の一本が出ないな」
「もどかしい」

スタジアム名物のシウマイを頬張りながら回を追うごとに、ビールの量も増えていく。


5回表、坂本のツーベースの後、投手のネルソンも四球で出塁し、近本のヒットで満塁のチャンスを作る。巧打者中野はレフトフライ。

「ダメか」と意気消沈しかけた時、前川が三塁線を破るタイムリーを放ち、ケイから1点を奪い取った。

阪神1-1DeNA

「いいぞ、前川!」

須原たちもビールカップで乾杯し、ハマスタに響き渡る六甲おろしに酔いしれる。前川の一打で、球場の空気が一変した。

「やっぱり野球は生き物だな」八田が言う。
「ああ」

須原は陽子の「研究はほどほどに」という声を思い出す。四十年連れ添った妻の皮肉にも、愛情が込められているのを知っている。

「前川、なんか降格した時から変えたのかな」八田がなんとなしに呟く。
「プロの技術論はわかんないな。けど、ヘッドが少し倒れてないか?ピッチャー側に」

須原は感想を述べた。

「こっから見えんのかよ」と八田にすぐ突っ込まれた。

もちろんここからは見えないが、昨日のヤクルトとの試合をテレビで見ててなんとなしに思ったことだった。構えた時のバットの先端が気持ちピッチャー側に向いてる気がするのだ。

喜んだのも束の間、その裏のDeNAの攻撃で桑原にタイムリーを打たれ、再び突き放された。

阪神1-2DeNA

「桑原って去年の日本シリーズも無双してたよな」
「ああ、覚えてるよ。とにかく横浜の打線は凶暴だ」

反対側の1塁側ホームスタンドでは、横浜ファンが盛り上がる。その様子を見て八田が笑いながら言った。

「なんかこう、東京の球団とはまた違う、おしゃれさがあるよなあ」


6回表。頼れる大黒柱5番大山が、ケイの内角寄りの球を完璧に捉え、レフトスタンドへホームランを放つ。須原たちの頭上をぐんぐん伸びていく力強いホームランだった。

打球音が胸の奥に残った。紙コップがかすかに震えた気がした。

阪神2-2DeNA

須原は空になった紙コップをそっと潰した。薄いプラスチックがぺこんと音を立てる。大山の一発で、また振り出しに戻った。

試合は両チーム継投に入った。お互い決め手を欠く白熱の投手戦が続く。気がつくと、球場の照明が点灯していた。いつの間にか夏の終わりを感じさせる夕暮れが訪れ、少し肌寒い風が頬を撫でて、須原はシャツの袖を軽く引っ張った。腰も少し重くなってきた。

「明日も五時起きだ」
「こっちは開店前に本の背表紙を揃える」
「続けるって、だいたいそういうことだな」
「うん」

10回には畠がマウンドに上がる。ジャイアンツから現役ドラフトで加入した右腕だ。連投となるこの日もピンチを背負うが、無失点で切り抜けた。

「しかし畠もなあ。不安そうな顔してんのに、球に力あるんだよなあ」
「ああ、三振取れるピッチャーはありがたいよ」

八田もすっかり赤くなった顔でうなずく。

「おまけに優勝の時のビールかけ。畠めちゃくちゃ弾けてたぞ」
「それな。1軍登板1回なのにな。でもそれでいいんだよ。多分根が明るいんだよ。アレ見て好きになった」

いずれにせよ頼りになる右腕の加入に、二人は上機嫌だった。

投手陣は踏ん張ったものの、横浜も一歩も引かず、ゲームはそのまま2-2で終わった。延長12回、4時間を超える熱戦。太陽はすっかり落ちて、ナイターの灯が球場と赤くなった二人の顔を照らしていた。


続けることの意味

ハマスタ最終戦ということで、球児監督と選手たちがレフト側に出てきてくれる。スタンド中から「球児コール」が降り注ぐ。

「いいもんだな、この光景」須原が呟く。
「球児監督も喜んでるだろうな」
「1年目でよくやったよ」
「魚も監督も、新しいのが一番輝いてる」
「…また魚につなげるのか」

「あっという間だよな」
「何が?」
「1年だよ。本当、年々早くなってくる。シーズンも終わっちゃうんだよなあ」

一年は、本当にあっという間だった。
そう思うだけで、胸の奥がすっと静かになった。

須原は胸ポケットから今日のチケットの半券を取り出した。老眼鏡を外し、小さく折れた端を確かめてから、持参の文庫本にそっと挟む。紙が紙に触れる小さな音が、たしかに伝わった。

八田が笑いながら言った。「帰ったら平積み直すんだろ」
「また誰かがずらすけどな」
「それでも直すのか?」
「直すよ。魚も毎朝並べ直すだろ?」

八田は笑みを浮かべて言う。「そうだな。でも腰はもう直らん」
「…そっちは保険で頼む」

二人は立ち上がり、空になった紙コップを重ねた。八田の荒れた手と、須原の本をめくる手。どちらも四十年以上かけて身につけたものだ。腰を伸ばす時、須原の膝が少し痛んだ。

「階段、ゆっくり降りよう」
八田が振り返る。「魚運ぶ時より慎重だな」
「年だよ。膝も腰も文句言い始めた」

八田も黙って頷き、須原と同じペースで階段を降りた。

関内駅までの人波に混ざりながら、須原は文庫本を胸に抱いた。今日の半券も、ちゃんと記録になった。阪神研究ノートの一頁として。

朝、陽子に言われた言葉がふっと浮かぶ。

「どうせ九回裏まで帰ってこないんだから」

――いや、むしろ今日は十二回まで研究してきた。

須原は小さく笑った。

陽子の呆れ顔が目に浮かぶ。そして、きっとこう言うだろう。

「風呂掃除も研究してよね」。

明日になれば、また誰かが平積みをずらすだろう。でも、それを直すのも悪くない。棚卸しでは意外と運動した気になるし、雨の日に新刊を濡らされても、それも含めて本屋という仕事だ。

とりあえず、帰りのコンビニで陽子の好きなアイスでも買っていこう。十二回まで研究したお詫びに。

時代は変わっていく。誰もがスマホを操り、客は電子マネーで支払う。それでも、掌に残る確かな感触がある。紙の手触り、続けることの意味。

今日という日も、きっとそのひとつだ。

本日の試合結果

スコアボード

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
阪神 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 0 2 9 1
DeNA 0 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 2 9 1

本塁打

  • 阪神:大山 12号(6回表ソロ)
  • DeNA:筒香 18号(2回裏ソロ)

責任投手

引き分けのため勝敗投手なし

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