【京セラドーム】延長12回逆転負け 伊藤熱投実らず 佐藤30号も 阪神1−3ヤクルト (2025年8月8日)

対ヤクルトスワローズ

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TIGERS STORY BLOGは、阪神タイガースの試合を“物語”として描く観戦記ブログです。

毎回異なる人物の視点から、勝敗にとらわれず心の揺れや日常の断面を言葉にしています。 “試合を知らなくても読める”、そんなブログです。

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試合概要・あらすじ

2025年8月8日、京セラドーム大阪で開催された〈TIGERS B-LUCK DYNAMITE SERIES〉。阪神タイガースは延長12回の末、1-3で東京ヤクルトスワローズに敗れた。先発・伊藤将司が9回1失点と粘り、4回には佐藤輝明が30号ソロで先制するも、9回表に追いつかれ、12回表に2点を奪われて逆転負け――試合時間は4時間超の激闘だった。

パート夜勤と在宅内職で節約漬けの日々を送る45歳・西田由紀子が、愛知から帰省した23歳の息子と黒い限定ユニフォームを纏って見届けた“黒ユニの夜”を振り返る。月一の特売こそ正義だった彼女が、スタンドの熱気の中で「たまには自分のために財布を開いてもいい」と気づくまでの4時間――その高揚と悔しさを、試合ハイライトとともに綴った観戦記。

OSAKAブラックフライデーズ〜阪神タイガース観戦記2025年8月8日

夜勤明けの朝に

朝の6時、コンビニの夜勤を終えて帰宅すると、駐車場に愛知ナンバーの軽自動車が止まっている。おとといの夜遅く帰ってきた直哉のものだ。

工場のお盆休みを早めに取ったと連絡があった。

西田由紀子は階段を上がりながら、久しぶりに3人分の洗濯物を干すことを考えた。
45歳、築25年の一軒家。

夫の剛志は長距離トラック運転手で、今朝早くに家を出て今週は日曜まで帰らない。

娘の杏奈は東京で服飾の勉強中。普段は夫婦ふたりの生活だが、子供たちが巣立ってからは冷蔵庫の中身も光熱費も随分減った。

PayPayの残高チェックが日課で、夜勤がない日は深夜ラジオを流しながらハンドメイド商品の梱包をする。

息子からのプレゼントと迷い

リビングで直哉がソファに横になっていた。23歳、自動車工場のライン工。

3年前に家を出て愛知で一人暮らしを始めてからは、盆と正月にしか顔を見ない。

「おかえり。朝まで起きてたん?」

「いや、今起きた。工場のシフトで体内時計ぐちゃぐちゃや」

直哉が身を起こし、テーブルの紙袋を指さす。

「オカンに。前から欲しがってた森下のやつ」

中から出てきたのは真っ黒な阪神ユニフォーム。背番号1、MORISHITA。触れば想像より重い。

「これ、高かったやろ?」

「気にせんでええ。夏のボーナス、思ったより出たし」

袖を広げながら胸がざわつく。息子からのプレゼントなんて、小学生の母の日以来かもしれない。でも素直に喜べない自分がいる。

「こんな高いもん、もったいないわ。そのお金、貯金しとき」

「たまには自分のために使い。オカン、節約ばっかりやん」

直哉がスマホを差し出し、得意げに笑った。

「8日はオカンも休みって聞いたし、直接見せとこう思って」

由紀子が画面をのぞき込むと、直哉が続ける。
「明日、予定どおり行こか」

私はスマホを開き、1塁側内野席の値段にビール代と交通費を足し算する。

1万円が頭に浮かび、つい独りごと。

「1万円あったら、特売いくつ行けるやろ……」

つぶやきが空中で小さく揺れた。

球場での新たな感覚

翌日、8月8日。午後4時過ぎ、外気33度。先に家を出た直哉と堺東駅前で待ち合わせた。

由紀子は黒いユニフォームに色あせたハイウエストジーンズ。直哉は同じ黒ユニの下にタンクトップを着ている。

南海高野線に乗り込むと、車内はすでに暑い。なんばで阪神なんば線に乗り換え、九条駅に着くころにはタテジマや黒いユニフォームを着た人が増えていた。

「今日、森下スタメンかな」

「どうやろ。最近調子悪いからなあ」

直哉がスマホでスタメン発表を確認している。私は息子の横顔を見つめた。いつの間にこんなに大人っぽくなったんやろ。工場で働いて、自分でお金を稼いで、母親にプレゼントまで買ってくれるようになった。

京セラドーム大阪に到着すると、入場ゲート前に長い列ができていた。
【TIGERS B-LUCK DYNAMITE SERIES】の文字が躍る看板の前で、ファンたちが記念撮影をしている。

「すごい人やなあ」

「金曜日の夜やからな。みんな仕事終わりで駆けつけてるんや」

ゲートをくぐると、漆黒のユニフォームに身を包んだファンたちが圧巻だった。
普段は黄色や黒の縞模様が球場を埋め尽くすのに、今日はOSAKAの金文字が光る特別な黒一色。

なかなか新鮮な景色だった。

「オカン、ビール飲む?」

「え、ええの?」

「たまにはええやん。オトンも普段一緒やったら絶対飲んでるで。」

直哉が生ビールを二杯買ってきてくれた。1塁側内野席から見るグラウンドは思ったより近い。
選手の表情まで見える距離や。

試合開始直前のスコアボードを眺めながら、私は胸の奥で小さな変化を感じていた。
家計簿をつける時間、PayPayの残高を確認する時間、ハンドメイドの梱包作業をする時間——それらすべてを一旦横に置いて、ただ阪神タイガースの勝敗を願う時間。

月一の特売より、これからはこの大好きなタイガースに財布を開けてもええんやろか?

その問いに答えを出すように、試合が始まった。

試合開始と佐藤のホームラン

球場のトイレから戻ると、直哉が困った顔をしていた。

「今日、森下スタメンちゃうわ」

ビジョンを見上げると、3番レフトに中川の名前。

「あら、せっかくユニフォーム着てきたのに」

「でも中川くん、昨日ホームラン打ったやろ?期待されてるってことや」

昨日の夜、夜勤の休憩時間にスマホを開くと、直哉から『中川ホームラン!』って連絡が入ってた。
急いで動画を探し出し確認した。

「見てて気持ちええよな。ああいう必死さが伝わる選手は」

1回表、阪神の選手たちが守備位置についた。
黒地にOSAKAの金色の文字が映える限定ユニフォームで。

マウンドの伊藤将司はテンポよく投げ込み、3つのアウトすべてをセカンドの中野が機敏な動きで処理した。

「中野くん、このユニフォーム似合ってるわ。忍者みたい」

直哉も笑って頷く。確かに守備範囲の広いセカンドの動きは忍者のようだった。

私はビールを飲みながら、不思議な感覚を味わっていた。普段なら家でラジオを聞きながら内職をしている時間。でも今は息子の隣で、何万人もの人と同じ方向を見ている。

2回裏、4番佐藤が凡退した後、大山がセンター方向へ特大の2塁打を放った。京セラドームが大きく盛り上がる。でも後続が続かず、チャンスは逃した。

「あー、もったいない」

そんな声が周りから聞こえる中、直哉が忙しく動き回る、売り子さんを呼び止めた。

「生ビール、もう一杯いる?」

「ありがとう」

気遣いが嬉しい。

息子から受け取った生ビールは、家で飲むよりもずっと美味しかった。

4回裏、先頭の中野がレフトへヒットで出塁。中川の2打席目が回ってきた。1打席目はバットが止まらずピッチャーゴロだった。

周りの阪神ファンが声を上げる中、由紀子は小さく「頑張って」とつぶやいた。

まだ大きな声を出すのは恥ずかしい。

でもセカンドゲッツーでチャンス消滅。

「あかんかあ」

周りからため息が聞こえたが、私も同じように肩を落とした。

2アウトランナーなしになったが、ここで4番佐藤が会心の当たり。ボールはライトスタンドへ高く、高く、吸い込まれていく。

球場全体が大きく波打った。周りのファンにつられて、私も立ち上がって手を鳴らしていた。

4番の大仕事。消えかけたチャンスの灯を、一振りで点火した。節目の30号ホームラン。

阪神1−0ヤクルト

ヤクルトの反撃と延長戦

6回裏、1アウト後に近本がヒットで出塁したが、中野・中川で返せない。
ヤクルトの高梨も100球を超えながら粘りのピッチング。この回の終了後、阪神に選手交代が告げられ、中川に代わってレフトには熊谷が入った。

「中川、今日は悔しい結果やったな」

直哉がしみじみと言う。

「何言うてるの。まだまだこれからやん」

自分でも驚いた。いつの間にか、息子より熱くなっている。

7回表、ヤクルトの4番村上が今日2本目となる痛烈なヒットを放った。
ノーアウトの出塁だったが、ここで伊藤がランナー村上を牽制で誘い出し、2塁でタッチアウト。

「出た!」

思わず叫んでいた。

ピッチングだけでなく牽制やフィールディングまで、本当に伊藤という投手は上手い。
今年、こんなシーンを何度見ただろう。

8回裏、1アウトから打席には伊藤がそのまま立った。ここまで投げ抜いて、9回も続投する気配。スタンドが少しざわめく。

9回表、マウンドへ向かう伊藤に自然とスタンドから拍手が贈られる。
迎えるのは強力ヤクルトのクリーンナップ。

ここまで抑えていた先頭の内山が、いきなり強烈なレフトへのツーベースヒット。
ヤクルト応援団も息を吹き返す。

続く4番村上との真っ向勝負。フルカウントからライトへの犠牲フライでランナーを進められ、オスナの内野ゴロでヤクルトが土壇場で同点に追いついた。

ヤクルトファンの歓声と阪神ファンの悲鳴がドームに交錯する。

—真夏の金曜日の戦いはまだ終わらない。

阪神1−1ヤクルト

1アウトを取ってマウンドを降りる伊藤に、スタンドが総立ちで拍手の雨を降らせた。

9回裏、阪神はここで代打森下がコールされた。スタンドが爆発する。

「やっぱりスターやなあ」

そう呟いた時、森下はしっかりレフト前にヒットで出塁。代走には俊足の植田。

果敢に盗塁を試みたがタッチアウト。勝負は延長戦へ。

私は時計を見た。もう夜の9時を回っている。普段なら深夜ラジオを聞きながら内職を始める時間。でも今は延長戦の行方が気になって仕方ない。

11回裏、石井と及川が凌いで迎えた延長11回裏。先頭の代打高寺のヒットと近本の四球でノーアウト1・2塁。10時に差し掛かろうかというタイミングで、ドームが一際高く盛り上がった。

私も身を乗り出していた。いつの間にか、内職の時間も家計簿のことも頭から消えている。目の前にの阪神の勝利だけがある。

中野の送りバント失敗で、最終的に2アウト満塁のチャンスで大山を迎える。

「頼む、大山!」

気がつくと大きな声を出していた。周りのファンと同じように、拳を握りしめて。でもヤクルト5番手矢崎の球威が勝り、絶好のチャンスを逃した。

「ああー!今の決めてほしかった!」

直哉に向かって思わず叫んでいた。

「ほんまや。どんだけ苦しい試合やねん」と笑って返す息子の顔も、もはや他人事には見えない。
大きなため息が球場を包んだが、私にはもう諦めるという選択肢はなかった。

12回表、今度は一転してヤクルトが2アウト満塁のチャンス。あとひとつアウトを取れなかった湯浅に代わり桐敷がマウンドに上がったが、増田に2点タイムリーを浴びて逆転された。

球場全体の張り詰めていた何かが一気に緩んだ。阪神がものにできなかったチャンスを、ヤクルトがものにした。

阪神1−3ヤクルト

それより大事なものを見つけた夜

プレイボールから5時間後。家の近所のラーメン屋で、直哉が麺をすすりながら笑った。

「阪神、日本シリーズ行くなら三人分のチケット取るわ」

三人分?私はスマホでポストシーズンの日程を調べながら聞き返した。

「オトンは仕事やろうし、オカンと杏奈と俺の三人で行こか」

杏奈。東京で服飾の勉強をしている二つ違いの妹のことを、兄である直哉が気にかけているのが嬉しい。

「そっか。杏奈、タイガース興味あるかな?」

「どうやろ。でも家族3人で球場行くん、久しぶりやな」

私はレシート入れポーチを確認した。特売で浮かせた分を、今度は球場で使う。その計算が、不思議と嫌じゃなかった。

「ほな、うちも貯めとく。いや、もうちょい早よ財布開こかな」

湯気の向こうで口角が上がった。『杏奈も誘ってみるわ』と直哉が麺をすすりながらスマホを操作している。

家に帰れば、空いたタッパーが待つ冷蔵庫。でも今夜は、そこに入り切らない思い出まで連れて帰る。

明後日には直哉が愛知へ戻ってしまう。けれど――次に会う日までの空白がもう寂しくない。

あの球場で知った熱が、まだ胸に残っている。月一の特売。

それより大事なものを、直哉と2人でこの金曜日の夜に見つけてしまった。

本日の試合結果

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
ヤクルト 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 2 3 10 0
阪神 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 9 0

責任投手

  • 勝利投手:[ ヤクルト ] 矢崎 (2勝0敗0S)
  • 敗戦投手:[ 阪神 ] 湯浅 (3勝3敗0S)
  • セーブ:[ ヤクルト ] 星 (1勝2敗5S)

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