【神宮】阪神にマジック36再点灯 夏のロード初戦を勝利 阪神3−2ヤクルト 佐藤が勝ち越しタイムリー(2025年8月1日)

対ヤクルトスワローズ

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試合概要・あらすじ

2025年8月1日、東京ヤクルトスワローズ対阪神タイガース戦が神宮球場で行われた。阪神は1回表に大山悠輔の適時打で先制。6回表には坂本誠志郎のタイムリーで追加点を奪った。しかし9回裏、守護神・岩崎優が代打宮本丈のタイムリーで同点に追いつかれ延長戦へ。10回表、佐藤輝明が決勝のタイムリー二塁打を放ち、3-2で勝利を収めた。

この試合を姉弟で観戦した大谷瑞穂(32)と陽介(25)の物語。7歳離れた姉弟が、半年ぶりの再会で見つめ直した家族の絆を描く。

神宮の二本線〜阪神タイガース観戦記2025年8月1日

久しぶりの再会と測りかねる距離

久しぶりに会う弟との距離感を、私はまだ測りかねていた。七つ離れた弟は、もう二十五歳になる。松戸で一人暮らしをしている陽介と、この半年、お互い忙しくて会えずにいた。

神宮前の駅を出ると、平日の夕方だというのに球場に向かう人の流れがある。白地に赤のピンストライプと、それに負けない阪神ファンの人の波。慌ててバッグから帽子を取り出して被った。

「お疲れさん」

陽介が手を振っている。久しぶりに見る弟は、なんだか顔つきがすっきりしていた。夏の暑さで少し日焼けしているのか、それとも何か吹っ切れたような表情なのか。

「おう、久しぶり」

ぎこちない。私たちはいつからこんな風になったんだろう。昔はもっと自然に話していたはずなのに。

球場に入ると、まだ時間があるからか席は半分も埋まっていない。三塁側の内野席、いつものように陽介が取ってくれた席だ。平日のナイターは、やっぱり空気が違う。休日の騒がしさとは違って、仕事帰りの人たちの静かな熱気がある。

ドリスの話題から始まった自然な会話

陽介が席に腰を下ろすなり、ペットボトルの水をひと口飲んでから、「昨日の中川くん、よかったなあ」と嬉しそうに言った。声が大きい。周りの阪神ファンが何人か、ふっと笑っている。

「せやな、熊谷もよかった。というか今年はよう目立つわ。ドリスも久々に見れたし」

私が答える。

「ドリス、あんなに球、落ちてたっけな。あの人、劇場型の初登板にならんでよかったわ」

陽介は両手で、ボールが落ちる角度を大げさに再現して見せる。

「落ちるっていうか、もはや消えとったけどな」

陽介の大げさな身振りが面白くて、私も思わず笑ってしまった。

「またこのタイミングでヤクルトは怖いなあ。村上どころか長岡も戻ってきてるし」

「しかも神宮ってのがまたドラマ起こりそうやねん。年に一度くらいめちゃめちゃ打ち合う日あるし」

陽介が言いながらポケットから団扇を出してパタパタやる。

日が落ちて風が出てきたおかげで、蒸し暑さはまだましだ。東京の混んだビアガーデンより、神宮のビールのほうがなんでこんなに美味しく感じるんやろ。紙コップを指でくるりと回しながら、そんなことを考える。

「にしてもよく間に合ったな、仕事抜け出して」

「抜け出してへんわ。今日はクライアントの最終チェックが通ったから、珍しく定時で上がれたんや」

「ほんまか? 会社のパソコン、まだ開いたままちゃう?」

「……開いてるかもしれんけど、今日は閉めた気持ちやから」

ちょっとだけ、自分に言い聞かせるような声になってしまった。陽介が横目でこっちを見て、何か言いかけてやめる。言葉を置くタイミングを探しているのが分かった。

「なあ」

「ん?」

「俺さ——」

そこで言葉が止まる。隣の席から聞こえる笑い声だけが、夕暮れの空に溶けていった。

試合開始と陽介の告白

私たちは並んで座っているのに、同じ景色を見ている気がしない。目の前に広がる緑の芝は、東京の中でやっと見つけた自然の色みたいに鮮やかで、でも陽介の目には何が映っているんだろう。

さっきの「俺さ——」で止まった言葉の先に、何があったんだろう。言いかけて、やめた。何か大切なことだったような気がする。でも私は、ちゃんと聞いてあげられるだろうか。

弟を見る。昔から変わっていない”勢い”の目の輝きがある。羨ましい。そして少しだけ焦る。私は「積み重ねて守る」ことばかりで、前に進むことから逃げているんじゃないか。そんな思いが胸の奥で重たくなる。

応援の歌が聞こえてくる。隣の席の家族連れが、小さな男の子に選手の名前を教えている。距離が近いようで遠い。言葉にできない距離感が、私と陽介の間にある。

ふと、会社の窓から見下ろしていた中央線の線路を思い出す。阿佐ヶ谷のオフィスから毎日眺めていた、平行に走る上り下りの線路。私たちも、あの線路のように平行のまま進んでいる。同じ方向を向いているはずなのに、決して交わることがない。このまま並んで歩いていくだけなんだろうか。

球場の湿った匂いと夕方の風で、少しだけ心がほどけている。グラウンドの向こうに、私と陽介のこれからの時間が並んで見えたらいいのに。

球場のスピーカーから、選手紹介のアナウンスが流れ始める。観客席がざわめき始めた。

「村上だけやなくて、長岡まで戻ってきてるやん」

陽介が少し驚いた声を出す。スタメン発表を聞きながら、私も少し身を乗り出した。離脱中だったヤクルトのショートが、今日に申し合わせたように戻ってきている。

「完全体に近づいてるな、ヤクルト」

「怖いで、ほんま。若い子ばっかりやのに、みんな打つ」

—プレイボール。私たちの会話も、いつの間にか自然になっていた。

1回表、いきなりチャンスが来た。2アウトながら2・3塁。大山が打席に立つ。

「頼むで、大山」

陽介が小さくつぶやく。高梨の投げたフォークが暴投になって、あっけなく先制点。

「おお!」

陽介が嬉しそうに手を叩く。私も思わず笑ってしまった。

「なんか点入ったー」

「ラッキーやったな」

3回裏、今度はヤクルトにチャンスが来る。長岡がレフト線に鋭い当たりを飛ばした。1アウト3塁のピンチ。私は思わず身を縮める。

「あぶない」

でも伊藤がきちんと後続を断った。中野のグラブさばきも鮮やかで、ベンチに向かう姿を見送りながら、陽介が感心したように言う。

「中野の安心感、今年すごいな」

「ほんまや。中野君の働きは素晴らしいで」

少し間があいて、陽介が小さく言った。

「姉ちゃん、実は昨日で仕事辞めたんや。上司と合わんくて、続けられへんかった」

え、と声が出そうになる。でも陽介は前を向いたまま続ける。

「もう転職先も決めてる。来月から新しいとこで営業やる」

そう言いながら、陽介の手がビールの紙コップを握り直す。

「心配かけてごめん。姉ちゃんには事後報告になってもうたけど」

私は何も言えずにいた。きっと相談されて、いろいろ心配して、アドバイスするんだと思っていたのに、もう全部決まっていた。

グラウンドを見つめながら、陽介が続ける。

「姉ちゃんは積み重ねるのが得意やけど、俺は踏み出すのしかできひん。でも、それでもええかなって思うねん」

声の奥に、少しだけ震えがあった。強がっているのが分かる。

私はようやく、小さくうなずいた。そして、初めて陽介の方を向いて言った。

「たくましくなったやん」

延長戦の緊張と姉弟の絆

5回裏、先頭太田の本日2本目となるヒットを皮切りに2アウト満塁の場面。それでも伊藤は顔色一つ変えずに、赤羽をセカンドゴロで仕留めた。

「ひりひりするなあ。この点差やと安心できひん」

私がつぶやくと、陽介がうなずく。

6回表、坂本の落ちるような当たりが、セカンドベースの後ろにポトンと落ちる。小幡が2塁から一気にホームを駆け抜けた。

「やった!小幡ナイス走塁」

陽介が興奮して言う。確かに今年の阪神は走塁がいい。神宮に吹く風も、なんだか味方をしてくれているような気がした。

「そういえば」

陽介が急に口を開いた。

「あの夏休みの宿題のこと、覚えてる?」

「どの?」

「姉ちゃんがいつも計画表作って、俺が最後の三日で慌ててたやつ」

ああ、あれか。私は毎年、七月中に宿題を終わらせる計画を立てていた。陽介はいつも「大丈夫、大丈夫」と言いながら八月三十日まで遊び続けて、最後に泣きながら宿題をやっていた。

「覚えてるよ。毎年同じことしてたもんな」

「あの時、姉ちゃんはいつも『計画性がない』って言ってたけど」

陽介がビールを一口飲む。

「俺は俺なりに考えてたんやで。最後の三日間を全力でやる、それも一つの方法やと思ってた」

「そんなん、ただの現実逃避やろ」

「そうかもしれん。でも、あの三日間は本気やった。姉ちゃんみたいに毎日コツコツできひんから、最後に本気出すしかなかった」

私は何も言えなかった。確かに陽介は、最後の三日間だけは本当に集中していた。食事も忘れて、夜中まで机に向かっていた。

「今思うと」陽介が続ける。「姉ちゃんは『積み重ねる』のが得意で、俺は『踏み出す』のが得意なんかもしれん」

踏み出す、という言葉が胸に刺さった。

五年前の甲子園を思い出す。雨の中、カッパを着て最後まで観戦した日。帰りに買った肉まんの熱さが、今でも手のひらに残っている気がする。あの時も陽介は「最後まで見よう」と言った。私は「風邪ひく」と心配していたのに。

「陽介」

「ん?」

「あの時の肉まん、覚えてる?」

「甲子園の? めちゃくちゃ熱かったやつ?」

「そう。あれ、美味しかったな」

陽介が笑った。久しぶりに見る、昔と同じ笑顔だった。

でも9回裏、岩崎がつかまった。もう9時を過ぎていた。金曜だからか、それでもまだこれだけの観客が残っている。代打の宮本にタイムリーを打たれて、あっという間に同点。土壇場の同点劇にヤクルトサイドに応援傘の花が咲く。本当に雨も強くなってきた。

「姉ちゃん、なんか嫌な予感せん?」

陽介の声に不安がにじんでいる。

「特に内山。あたりがぜんぶ外野飛んでるで。どんだけ若い打者育つねんヤクルト」

延長に入った。10回表、雨足が強まる中、近本が2塁にいる。4番佐藤の打席。追い込まれてから、大西のフォークを見事にとらえた。打球がライト丸山のグラブの先を超えていく。

「テル!」

陽介が叫んだ瞬間、私は思わず弟の肩を抱き寄せていた。

「どこまで頼りになるんや」

陽介の体温が伝わってくる。

久しぶりに感じる、弟のぬくもりと存在。

「陽介も、な」

私が小さく言うと、陽介がこっちを見た。

「姉ちゃん?」

「新しい会社でも、きっと大丈夫や」

—短い言葉だったけれど、陽介の顔がふっと緩んだ。

二本線が教えてくれたこと

私は隣の陽介を見る。並んで座る私たち。

会社の窓から見ていた線路のように、ずっと平行のままだと思っていた。でも今は、弟を送り出す準備ができている気がする。昔から一歩先を歩いていると思っていたのに、いつの間にか陽介は自分の足で歩いていた。

陽介の横顔を見る。

照明の白い光と大きな雨粒が、弟の頬を薄く照らしていた。

本日の試合結果

2025年8月1日 東京ヤクルトスワローズ vs 阪神タイガース(神宮球場)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
阪神 1 0 0 0 0 1 0 0 0 1 3 10 1
ヤクルト 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 2 7 1

勝利投手: 岩崎優(1勝2敗23S)
敗戦投手: 大西(1勝1敗4S)
セーブ: 及川(4勝3敗1S)

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