試合概要・あらすじ
2025年7月19日、東京ドームで行われた阪神タイガース対読売ジャイアンツ戦。先発は阪神が村上、巨人は山崎伊織の同学年両エース対決となった。序盤から投手戦の様相を呈し、両チーム無得点のまま延長戦へ。11回表、森下の四球から佐藤輝明が2ランホームラン、続く坂本誠志郎も2ランを放ち一気に4点を奪取。岩崎が締めて阪神が4-0で完封勝利を収めた。
この試合を観戦したのは、御徒町のガールズバーで働く遠藤奈央子(23歳)と同僚の琴音。Wワークで忙しい奈央子は客受けの「あざとさ」ができないタイプだが、夜職専業で天性の人たらしである琴音とは対照的。奈央子は今日休みを取って純粋に応援できる一方、琴音は試合後の営業を意識している。二人の阪神ファン女性が東京ドームで過ごした特別な一日を描く。
同伴未遂〜阪神タイガース観戦記2025年7月19日〜
東京ドームへ向かう二人
夕方の東京は、うだるような熱気に包まれていた。御徒町のガールズバーで働く遠藤奈央子は、同僚の琴音と並んで東京ドームの三塁側アルプスに向かって歩いていた。
「うち、ほんま楽しみや。試合のあとお店やから、今日はお客さん誘えるかもしれへん」
琴音は阪神のユニフォームに帽子まで完璧に装備して、完全にファンモードだった。自称社長の客からもらったチケットだというが、琴音はいつもこうして男性から何かしらもらっている。それも嫌味がないから不思議だ。
「私は今日お休みもらったから、久しぶりに純粋に応援できる」
奈央子がそう言うと、琴音は「ええなあ、奈央子は」と笑った。
奈央子も阪神ファンだが、琴音ほど表に出すタイプではない。昼はネイルサロン、夜はガールズバーのWワーク生活で、客受けの「あざとさ」がどうしてもできないタイプだ。愛想はあるが、媚びない。それが自分なりのプライドだった。
二人が仲良くなったのは、奈央子のスマホのトラッキーストラップがきっかけだった。
「え、阪神ファンなん?うち豊中で育ってんねん!」
琴音が関西弁で食いついてきたのが三ヶ月前。夜職専業の琴音と、昼夜のWワークで必死な奈央子。住む世界は違うけれど、阪神という共通点で意外にも話が合った。
琴音の本領発揮
ドームに入ると、琴音の本領発揮が始まった。
「うちは伊藤将司がタイプやねん。年中半袖着てるような人。」
前席の男性に軽口を叩くと、相手は爆笑した。奈央子はその光景に少し引きながらも「すごいな」と思った。琴音は人との距離がゼロ。いつも輪の中心にいて、でも嫌味がない。モテるのに妬まれない女。あざといのに愛される人間。
奈央子には、それができない。
試合が始まると、同学年の両エース対決は予想通りの投手戦になった。阪神の先発は村上、巨人は山崎伊織。一回表、山崎が三者凡退の上々の立ち上がりを見せると、村上も先頭の丸から三振を含む三者凡退。
「ああ、村上くんよかったあ。前回があったから心配しててん」
琴音が大きな目を潤ませながら言う。その声に前の席の男性がちらりとこちらを見るが、琴音は120点満点の笑顔で会釈を返す。
三回表、阪神は八番高寺がヒットで出塁。村上が送りバント、近本が四球で一・二塁のチャンスを作るが得点は奪えず。
「高寺君、ええなあ。頑張って欲しい」
琴音の呟きは大きく、いつも周りも巻き込むような言い方をする。もちろん奈央子も高寺を応援している。こうやって出番が増えてくるのは素直に嬉しい。
四回裏、巨人は先頭の丸がヒットで出塁。ランナーを進められ、村上は初めて三塁にランナーを背負うが、四番増田をレフトフライに打ち取りピンチを脱した。
「よかったあ。なあ奈央子」
「うん。今日の村上君気合入ってるね。ヒリヒリする」
奈央子は自然に返事をしていた。琴音と話していると、なぜか素直な言葉が出てくる。
投手戦の中で
七回表、試合は予想通り両エースが踏ん張りゼロ行進が続いていた。佐藤の四球、大山のライト前ヒットでチャンスが広がり、一アウト満塁。
盛り上がる阪神サイド。大きなチャンステーマが二人を包んだ。が、さすが巨人のエース山崎。ここでギアを上げ、高寺、代打糸原をも連続三振。今日も一点が遠い。
「あーん。悔しい〜」
大きく息を吐いた琴音に、「今のは悔しいね」と琴音の隣に座る五十代くらいのおじさんが話しかけた。
「はい。ほんまに」
琴音はちゃんとおじさんの方に向き直り言葉を返す。うーん、プロだ。そんな琴音を見ていて、奈央子はぼんやり思った。
「はい奈央子」
いきなり琴音がビールを回してくる。なんとなく受け取ったが、どうやら隣のおじさんが買ってくれたらしい。
「ありがとうございます」
少し声を張って琴音越しに伝える。さすが琴音。距離の詰め方が絶妙だ。ビールも高いのに。
九回裏、マウンドには湯浅。阪神も巨人も継投に入り、投手戦は続く。先頭吉川への四球、続く四番増田の送りバントで得点圏にランナーを進められるが、続く泉口の強烈なピッチャーライナーを湯浅は見事なフィールディングで処理した。
阪神の投手陣は今日も譲らない。
延長十一回の爆発
そして延長十一回表。
巨人のピッチャーは船迫。一アウト後、森下が四球。続く佐藤の三球目。振り抜かれた打球は、打った瞬間ホームランとわかる大飛球だった。ライトスタンドの奥深くに飛び込んだ。先制二ラン。
その瞬間、奈央子の中で何かが弾けた。
「やったあ!」
自分でも驚くほどの声が出ていた。気がつくと琴音と肩を抱き合って喜んでいる。六甲おろしも気持ちいい。説得力抜群のホームランの余韻に浸っていたら、七番坂本も二ランを打った。今度はレフトスタンド。
阪神4−0巨人。
阪神応援団は熱狂に包まれた。琴音は奈央子とハイタッチしたあと、隣のおじさん、前のお兄さん、後ろのおじさんとハイタッチが忙しそうだ。それにしても四点は大きい。遠かった一点だが、一気におまけ付きで四点が降ってきた感じだった。
十一回裏、岩崎が先頭を出す。よく見る景色だから、あまり動揺はしない。とにかく四点あってよかった。案の定、岩崎は何事もなかったようないつものポーカーフェースで後続を打ち取りゲームセット。
延長を終え、佐藤のヒーローインタビューを聞き終えたアルプスの阪神ファンが一気に出口に向かった。
「お姉ちゃんら、このあと祝勝会行かない?」
結果的にビールを三杯も奢ってくれたおじさんが琴音に尋ねた。あの120点満点の笑顔でニッコリ笑った琴音だったが、「私たちこれからお店なんですう」と答える。
おじさんは一瞬びっくりしたが「また今度やな」と悔しそうに言った。琴音はさっと名刺を取り出して渡す。お店に来てもらう営業も同伴もするが、プライベートな飲みは断る。仕事とプライベートの線引き。このあたりがやっぱりすごい。
ドームを出て、駅へ向かう二人。人ごみに紛れながら階段を下りる。
「奈央子、今日声出てたやん」
琴音が笑いながら言った。
「うん、たまにはね」
奈央子は少し息を吐いて、今日の一歩を反芻した。媚びたわけじゃない。
ただ、自分の意志で選んだ声援だった。
琴音の真似をしたわけでもない。
坂本のホームランのあと、私は前のお兄さんとハイタッチしていた。
笑いながら、隣の人にも「めちゃくちゃいい試合ですね」って声をかけていた。
そんなこと、ふだんの私なら絶対にしない。
でも、あの瞬間だけは、輪の中に自分から歩み寄っていた気がする。
あれは、私なりの“同伴未遂”だったのかもしれない。
階段の途中で、奈央子は立ち止まる。
今日という日が、自分の中にしっかりと残っている。
「同伴って、案外、自分から踏み込まなきゃ始まらないんだね」
奈央子は小さくつぶやいた。琴音には聞こえないくらいの声で。
本日の試合結果
阪神 4-0 巨人(東京ドーム・延長11回)
勝利投手: ネルソン(1勝1敗0S)
敗戦投手: 船迫(1勝3敗0S)
本塁打: 佐藤輝明25号(11回表2ランホームラン)、坂本誠志郎2号(11回表2ランホームラン)
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