阪神 佐藤輝が満塁弾&森下が2試合連続HRで8得点快勝 関西ダービー スイープで4連勝|2025年6月8日 甲子園

阪神タイガース観戦記
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TIGERS STORY BLOGは、阪神タイガースの試合を“物語”として描く観戦記ブログです。

毎回異なる人物の視点から、
勝敗にとらわれず心の揺れや日常の断面を言葉にしています。
“試合を知らなくても読める”、そんなブログです。

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阪神が8-1でオリックスを下し、オリックスとの関西ダービーを3連勝でスイープ。
ルーキー伊原が5回1失点で今季5勝目を挙げ、3回には森下の3ラン、8回には佐藤輝のグランドスラムと、打線が試合を決定づけた。交流戦単独首位に立ち、チームはこれで4連勝。

そんな甲子園のスタンドで、ひとりの女性がふとスマホをしまった。
インスタに「ちゃんとした毎日」を投稿していた瀬那は、学生時代の友人・美樹との再会で、自分がいつのまにか“充実してるフリ”をしていたことに気づいていく。
見せるために撮った写真じゃなく、“写ってないもの”ばかりが心に残ったその日。
カメラロールの余白から、彼女が最後に見つけたものとは——


カメラロールの隙間〜阪神タイガース観戦記 2025年6月8日〜

スマホの画面を、指先がなぞる。
日曜の朝。洗濯もメイクもまだ。ベッドの上で、ただストーリーズを流してた。

「#朝活 #ご褒美スイーツ #週末デート」

他人の生活が、心地よさそうなフィルター越しに並ぶ。
けど、特に何も思わない。
羨ましいとか、腹が立つとか、そういう反応すら鈍ってきた。

気づけば、自分も同じことしてる。
昨日のカフェの写真を、今朝“いい感じ”に加工して投稿したばっかり。
コメントがつくたび、何かを得たような顔をして。
でもその一方で、なにかを“つないでるだけ”のようにも思える日がある。


「伊原君と曽谷君って、胃に悪いやつやん」
「ほんま、交流戦ってこういう地味に胃にくるカード多いわ」

阪急特急。座席は2人がけ、右窓側。
高校時代からの友達、美樹とはこないだも会ったばかり。

「熊谷君スタメンあるかもな、昨日も大活躍やったし」
「けど曽谷君て左バッターの方が相性良さそうやで」

甲子園駅に着いた。
改札を抜けた瞬間、空気が変わる。
黄色とネイビーのユニがちらほら。売店でハイチュウとタオルを買う声。
美樹がユニフォームをカバンから出して、ぐしゃっと広げた。

「覚えてる?高校の時、夏休みに来たやつ」
「あー、あんときあんたがキッズ用ユニ買ってピチピチなってたやつやん」
「そうや!うわ、思い出したわそれ!」

笑いながら、私は喉の奥が少しつまるような感じがした。
たぶん、美樹の言葉や表情が、いつまでも素直だから。

今の私は、自分をちょっと“見せる側”に置いてしまってる気がする。


「最近どう?」って聞かれると、少し間が空く。
三浦瀬那、26歳。保険会社の事務をしている。

仕事は…まあ、普通。
事務所では、入力ミスが起きるたびに謝る係。
営業担当の書類をチェックして、印刷、ホッチキス、クリアファイル。
誰かの“すみません”を、私が吸収するのが日常になってる。

クレーム電話も、最初に出るのはこっち。
「助かりました、丁寧ですね」って言われると、
“やりきった”より“演技が通った”という感覚に近い。

昼休み、レンジの前で並びながら画面を見ると、
結婚式や旅行の投稿が流れてくる。
それを横目で見ながら、自分も“ちゃんとやってる風景”を撮ってアップする。
#ご褒美ランチ #午後もがんばろう
気づけば、投稿のために行動してる日も増えた。

美樹がタオルで汗を拭きながら「風きもちいな」ってつぶやいた。
その声の高さと空気の熱だけが、ふっと胸の奥に入り込んできた。

席に着いたころには、もうプレイボールの時間だった。


1回表、オリックスの先頭・麦谷が内野安打で出塁。オリックスのルーキーだ。
いきなりヘッドスライディングで出塁したのを見て、美樹がぼそっとつぶやく。

「わあ、先頭打者やん、嫌やなあ」

でも、続く2番・西川の2球目で、坂本が盗塁を刺した。
「坂本くん、攻守で絶好調やん」って、美樹が言う前に、もう私が言ってた。

その裏、阪神の攻撃はあっという間に終了。わずか6球。
携帯を構えたまま、シャッターも押せず、画面だけがぽつんと光ってた。

3回、甲子園にぱらっと雨が落ちてきたころ。
2アウトから中野がレフト前へタイムリーで先制すると、スタンドが一気に色を変えた。
続いた森下の打球は、レフトスタンドへ一直線。3ラン。

「うっそ、今の入ったん!?」
「あれ打てるん、反則やろもう」

美樹とハイタッチしながらも、私はさっきの“構えたまま撮れなかったスマホ”を思い出してた。

「なあ、昨日と同じ場所ちゃう?」
「てかあんた、構えてただけやったな?カメラ散歩か思たわ」

美樹が笑いながら言う。
撮ってないはずなのに、
ボールの軌道と甲子園の熱だけは、胸の奥で鳴っている。

7回には新助っ人ネルソンが登板。
「石井君いーひんから、ピッチャーも大変やな」
「ここで新しい中継ぎ投手出てきたら、でかいよな」

三者凡退で無事にマウンドを降りたネルソンが、坂本と笑顔で言葉を交わしているのが、
モニター越しに見えた。
なんか、それだけでちょっとほっこりした。

そして8回裏、代打・糸原がライト前ヒットで出塁。きっちり仕事をこなす。
敬遠で満塁策をとったオリックスに対して、バッターは佐藤。
何かを期待する球場のボルテージのギアが上がった。

「この場面で…テル君?」

息をのんだその2球目。
振り抜いた打球が、バックスクリーンに吸い込まれていく。

美樹が、両手をバンザイみたいに上げたまま言った。

「ちょっと待って、今の現実なん?」
「今日、物語すぎひん?」

スタンド全体が揺れたまま、しばらく誰も座らなかった。
隣の知らない誰かともハイタッチして、汗で貼りついたタオルを握りしめた。

目の前の景色が派手であればあるほど、心の奥には何かがじわっと染みていく感じがあった。


ゲームセット。阪神、8−1。
関西ダービー、スイープ完了。

スタンドのざわめきのなかで、
美樹が空を見上げてつぶやいた。

「ええ日やったな」

今日は、ちゃんと撮ったはずなのに。
ビールも、スコアボードも、美樹の笑顔も。

なのにカメラロールを見返すたび、
写ってないものばかりが浮かび上がってくる。

美樹が続けて言った——
「あんた、誰かに見せるために全部やってるわけちゃうやろ?」

その言葉のどの部分が、
自分のどこに刺さったのか。
うまく言葉にできないまま、

写ってるものより、写ってないもののほうが騒がしくて、
私はそっと、カメラロールを閉じた。


【本日のスコア】 2025年6月8日(日)|甲子園球場
阪神 8−1 オリックス

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