ルーキー二人の午後 ~【阪神タイガース観戦記】
先々週の月曜日。昼休みに鈴木先輩から声をかけられた。
「亮、日曜空いとるか?甲子園行くで。12時、阪神電車の改札な!」
なんの脈絡もなく言われて、思わず「え?」と返したら、先輩は「取っといたからな」とだけ言って、ラーメンをすするのに戻っていった。
当日、駅で待っていた鈴木先輩は、いつもの調子と違って、やけに静かで落ち込んでいた。
「どうしたんすか」と聞いたら、ため息混じりに「金土で2連敗や……」と。
「そんな理由かよ」と思ったけれど、それを口にする勇気はなかった。
関西に来て三週間。神戸の印刷会社に就職して、いまは西宮の独身寮で暮らしてる。
まだ職場にもこの土地にも慣れていない。敬語がしみついたままの自分が、ちょっと浮いている気もしていた。
甲子園の一塁内野席に着くと、鈴木先輩はようやく元気を取り戻したようで、売店からピザとビールを持って戻ってきた。
「亮、乾杯や!」
こっちの反応を待たずに紙コップを突き出してくる。
「……なんか、こういうノリ、苦手かも」
言葉にはしなかったけど、自然とそんな気持ちが浮かんだ。
スタンドの空はどんより曇っていて、20度。春にしては、すこしひんやりする午後だった。
一回裏、佐藤輝明のホームラン。
打った瞬間に、それとわかった。
バックスクリーンへの打球を見届けたライトスタンドの黄色が、一瞬で爆発したみたいに揺れた。
「うわっ」
思わず声が出た。
横を見ると、鈴木先輩の背筋がピシッと伸びている。
少し前まで落ち込んでいた人と同一人物とは思えないくらいだった。
三回表。
広島にチャンスが訪れた。
でも、ノーアウト一三塁の絶望的なピンチを、阪神の先発・伊原が粘って抑えた。
「亮、彼、ルーキーやで。お前と一緒や」
「え、マジっすか」
「マジや。今日の主役はルーキーや」
そう言われて、すこしだけ背中がしゃんとした気がした。
たしかにぼくも社会人ルーキーだ。関西弁もまだうまく返せなくて、よく職場の人に笑われる。
「敬語って、会社の外でもクセになるんだよね」
ぼそっとこぼして、自分で小さく笑った。
伊原はその後も無失点で切り抜けた。
先輩が、うんうん、と何度もうなずいている。
五回裏。
佐藤が今度もバックスクリーンへ。
2本目のホームラン。
まるで一打席目と同じ場所に、吸い込まれていくような打球だった。
ぼくはただ見とれてた。
となりでは鈴木先輩が、隣のおばちゃんと肩を叩き合いながら笑っていた。
「ほんまええもん見せてもろたわ〜!」
「ほんまやで、今日はビール進むわ!」
ここが関西で、ここが甲子園で、今ぼくはその中にいる。
そう思った瞬間、なんだか悪くないなと思えてきた。
八回裏、さらに追加点が入って、スタンドは最高潮になった。
小幡のヒットにぼくもつい声が出てた。
まわりの大声にまぎれていたから、誰にも気づかれなかったと思うけど、たしかに声が出た。
「ナイスバッティン!」
そんな言葉が、たぶん初めて、自然に出てきた。
試合は、阪神が8−1で快勝。
応援のリズム、歓声のうねり、そして佐藤の2本のホームラン。
全部が、音じゃなくて感覚として残っていた。
帰り道、ぼくが感想を言うより早く、鈴木先輩が振り返ってニヤリと笑った。
「さあルーキー、飲みにいくでー!」
そう言って駅の階段を駆けあがっていく先輩の背中を見ながら、ぼくも少しだけ足を速めた。
【今日のスコア】
2025年4月20日(日)阪神 8 − 1 広島@甲子園
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